『親はあっても子は育つ』。。。らしいです
娘への誕生プレゼントを受け取りに友人の工房を訪ねました。
手作りなので当たり前ですが、"この世にひとつだけの時計" です。
目盛りのない文字盤には、"時を忘れて、どうぞゆっくり楽しんでください" の意味があります。
もちろん機械部分は既製品です。
「最近の百均はすごいね」と言うと、「百均じゃねえ」と友人夫婦にハモりながら怒られました。
んなことはどうでもよくて、ここ日本かよって話です。世界でもありえません。
工房に着くと知らない女性がいました。軽い会釈をして中へ。
センス良く物が配列されており、さおり織りの教室があります。
カッコよく天井が抜いてあり梁が出ていました。ぼくの友人が勤める建設会社が改築工事をしたとのことです。
「さっきの女性は、そこの娘さんですよ」と、ご主人が言います。
「え~、そうなの。どこ?」
最近、社交力アップを目指しているぼくは、すぐに女性の元へ。
まだまだ初心者なので、急に距離を詰めようとします。
「こんにちは。S建設のかた? お姉さんに、ちょっとヤンちゃな人いますよね?」
「え? 姉ですか? まあ男勝りですけど、、、設計士やってますし」
「ああ、長女のかたは設計してますよね。じゃなくてもう一人」
「じゃ、わたしですか?」
「いやいや、違う違う」
そんな失礼なこと、面と向かって言うはずがありません。
「でも・・・」
なんか話がかみ合いません。
「じゃ、妹さんかなあ」
ぼくは三姉妹だと思いました。
「いえ、妹はいません。弟なら、いますけど」
「ええーっ? ごめんなさい」
まさかの本人でした。
向こうも間違えた原因がわかっているようで、気まずい雰囲気に。
そういえば、ずいぶんと会っていません。
ぼくは、ごまかそうとお父さんの話を振りました。
「お父さんすごいよね。棟上げ前の梁の上を走るもんね」
その社長には武勇伝がありまして、70歳になった頃に、軽トラごと海に落ちたんです。
岸壁で飛び降りて逃げようとしたら、腕が挟まって、そのままドボン!
水中ではドアが開かなくなることを知っている社長は、窓を開けて水が入りきるのを待ちながら沈んでゆきます。
しかし、ドアが下になって開きません。
海底に足が着くやいなや社長は、背負い投げをするように軽トラをひっくり返して、ようやく脱出に成功します。
もう少しで息が続かないところだったそうです。
指を1本失くした社長でしたが、その武勇伝で入院先の病院は明るくなったと聞いています。
娘さんが返しました。
「でも、ひっどいですよ。私が屋根に乗って手伝っていたら、『ジャマだ! どけ!』って、持ってた角材で突き落としたんです」
「は?」
「そして、落ちていく私に向かって『足から落ちんと死ぬぞ!』って言ったんです」
「うそでしょ」
「地下足袋だったから、かかとにひびが入りました。2階からだったので」
「ひーー」
そう言えば、一緒に働いている息子さんの頭をユンボのバケットで叩いているのを見たことがあります。
『獅子はわが子を千尋の谷に突き落とす』の人間版は『親父はわが子を2階の屋根から突き落とす』でした。
わが娘には、この話をしてからプレゼントを渡そうと思います。
坂口安吾氏が言っていたことは本当でした。
『親はあっても、子は育つ』