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目の前にスカイツリーがある恐怖3

スカイツリーにはいつまで経ってもたどり着かないし、冬に裸足クロックスは痛すぎる。半分嫌になっていた私は、当時アプリで仲良くなった男の子に電話した。

もしもし?


眠そうな声が画面越しに聞こえる。よかった

1:00をとっくに過ぎていたがゲームをしていて起きていたようだ。電話に出てくれた嬉しさもあり、私は早口で今の状況を伝えた。



帰んなさいよ、馬鹿。2時間ぐらい歩いて着かないんだったら無理だって。俺寝るし。



彼の態度は風よりも冷たかった。まあ、普通に考えてそうだよな。夜中にスカイツリーまで歩いていくからテレビ電話で実況するね!って急に言われて快く了承する奴なんていないよな。あーあー残念だなー、実況したかったなー、誰かに視聴者役になってもらいたかったなー。そういいながら粘ること5分。

ブンブゥーハローユーチューブ

口が悴んで唾を飛ばすだけの汚いビートボックスを合図にYouTuberごっこが始まった。誰かと見ていてくれる人がいるってだけで、先の足の痛みも眠気も忘れていた。

上野の街区表示版が増えてきたころ、私は歩き始めてからずっと探していたものをやっと発見した。

皆さん!見えますかアレ!なんと100円の自動販売機を発見しました!早速見てみましょう!

そういうの良いから、普通に歩きなさいよ。そんなに騒いでたら通報されるよ。

途中画面の向こうから辛辣なツッコミを受けつつも私は興奮気味に自販機に近づいて行った。そう、ずっと探していたのだ、100円のコーンポタージュを!コンビニで買えばいいじゃんとツッコミが聞こえたが、それは素人の考え。なぜなら私は、500円しか持っていないのだから。その辺の自販機でコンポタを買ってしまえば、せいぜい飲めて4本分と数十円のおつりが残るだけ。だったら、少し我慢して100円の自販機を探しコンポタを5本買ったほうが賢いと判断したのだ。(この企画やってる時点で馬鹿なんだけど)

震えた手で、500円玉を自販機に入れ迷わずコンポタージュを買う。

あったかい…見てください皆さん!念願のコンポタージュですよ!早速いただいてみましょうっと、その前に顔を温めていきたいと思います!



え、何やってんの?困惑の声をよそに私は鼻にコンポタ缶を押し付けた。


ああ…生き返るー


普通なら念願のコンポタをすぐに飲んでしまう人が多いだろうが、それではせっかくの温かいコンポタ様がもったいない。そこで、私はコンポタ缶を首や鼻などに押し付け暖を取り、ぬるくなったら飲むようにしている。体も温まるしお腹もちょっぴり膨れる、一石二鳥だね。なんてカメラに向かって、鼻水を垂れ流しながら解説している私は傍からみたら不審者だろう。たった一人の視聴者も引いていた。

コンポタを2本飲み終えたころ、スカイツリーばかりを見上げて首が痛む程度の距離にまで近づいていた。

見えますか?スカイツリーはもう目の前ですよ!

キンキンに冷えたスマホをおでこにあてて、カメラに映るようにした。


さあ、やっと到着です!イエーイ!ドンドンチャッチャ!ぱふっぱふっ!!


汚いボイスパーカッションでここまで歩いてこれた自分を褒め称えながら、スマホの画面に目をやった。あ、もう3:00なんだ。

グジュっと鼻をすすり、そろそろ帰えろっかと画面に向かって言ってみたが、聞こえたのは返事の代わりに気持ちよさそうな寝息だけだった。あ、私置いて寝ちゃったよ。仕方ないか。


ここまで付き合てくれてありがとう、おやすみ


そう呟いて静かに赤い受話器ボタンをタップした。

さあ、最短ルートを調べてその方向に歩いて行こう。Googlemapを開き地図を見ようとするが、何かがおかしい。充電が残り13%だと…

足りないおつむで考えてみた、まっすぐスカイツリーに向かって歩いてここまで来たから、スカイツリーを背にまっすぐ歩いていけば築地まで帰れるのではと。賢いアイディアだ!Googlemapいらないじゃん!(*まったく賢くはない)

瀕死のスマホと300円をポケットにしまいスカイツリーを背中に歩き始めた。

スカイツリー到着の感動からどれくらい経過しただろうか、私は本日4回目のスカイツリーに困惑していた。歩けど、歩けどスカイツリーさんが目の前にいるのだ。4時間前はあんなに欲していたスカイツリーのはずなのに、今じゃ恐怖の対象以外の何物でもない。昔やった【かごめかごめ】の歌がなぜか頭の中をループしていた。あの歌のどこかに【行きは良い良い、帰りは怖い】ってフレーズがあったような…はっ!!私その状況なうじゃん!ほん怖に投稿できるやつじゃん(*全く関係ありません)眠気と疲労がピークに達し、正常な判断なんかできていなかった。(*初めから正常な判断なんかできていません)



チュン、チュン

自宅から10分のところにある公園で朝日に照らされていた。小鳥のさえずりが心地よい。結局、家に着くまでに私は少なくとも7回スカイツリーが目の前に出現する現象に悩まされた。今思えば,夜のスカイツリーの不思議な引力で引き付けられていたのではないかと思う。家に着いた時には7:00を過ぎていて、びっくりした。それ以上にびっくりしたのは私の足の具合だった。↓



裸足クロックスは駄目だって

きっと、もうやらないだろう。



今回の教訓
1.コンポタージュは暖とれる
2.スカイツリーまでの道のりは行は良い良い、帰りは怖い
3.冬に裸足でクロックスは駄目だって。



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