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初めての一人暮らしが海外だった話 2


タクシーからYMCAの文字のある建物が見えた。
家賃やホテルの宿泊費が高いと有名な香港
新人ダンサーの為にカンパニーが用意してくれるホテルだから
そんなに良いところでは無いだろう。
と期待せずにいたどころか、ちょっと汚い安ホテルを覚悟していたのだけど、
外から見る限りではしっかりとしたホテル。

タクシーから見える光景に、
またまたこれからの新生活への希望でいっぱいになっちゃうじゃん。


タクシーがホテルの入り口に着き、
大きなスーツケース3つと共にホテルのロビーに入る。


ロビーは広く、受付はカウンターも係の方もしっかりしていて
「あれ?今のところ思っていたより良さげなホテルだぞ」
まずホテルにタクシー寄せがあるだけで、
覚悟したような安ホテルでは無いことは察しがついていたけれど。


ベルボーイが荷物を預かってくれるという。
ご丁寧にベルボーイまで常駐しているのね。

パスポートを渡しチェックイン。
鍵を受け取って部屋に入り腰を下ろす。

なんせここまで

僕は緊張で、フライト中ずっと背筋を伸ばして座っていた。

気を張っていたのもあり、飛行機オタクな僕でも
当時の機種、機内や機内食を覚えていない。

初めての一人暮らしが海外だった話 - おしゅん -

ので、フーッと息をつきたいんだけれど、
そろそろ荷物が届くだろうという頃になっても音沙汰がないので
ベルボーイに預けたとされる荷物がちゃんと届くのか、
忘れられてやしないかと、少し心配にもなり
そわそわし始める。



そんな心配をよそに、
しばらくするとベルボーイがきちんと部屋まで運んで来てくれた。

事前にネットで調べた感じだと、一般的にチップ文化はほぼ無いものの、
ホテルなどでチップを渡すことはあるとのことだったので、
チップを渡す。さすがに渡した金額までは覚えていないのだけど。


香港に何度も渡航したことがある方や
香港に長年住めばわかるのだが、実は香港にチップ制度は"ほぼ"無い
日常でチップを別に払うということはほぼ無く、払わなくても誰も気にしない。

ただ、レストランなどでお釣りが硬貨だった時などは、少し置いていく。
店員さんも、チップにできるようなコインをわざわざ混ぜてお釣りをくれたりする。

なんならお釣りを渡される時に、
レシートと共にバインダーに載せられたお釣りの全てを一度に取らないと、
当たり前のように残りを持っていかれる。


ただ値段にすると硬貨をバインダーやトレイなどに置いていく=数十円程度なので
アメリカでのいわゆるチップというよりは、本当に端数をくり上げて支払う程度。
(アメリカの、しかもニューヨークのレストランでの一度のチップ額が優に数千円を超えるのと比べたら、無いに等しいのかも。)

というかお会計云々以前に、
料理を食べ終わっていなくとも、

ある程度食べた形跡があり、
店員さんが通るその瞬間に食べている動作がなければ
お皿を容赦なく持っていかれてしまう

のでカトラリーを持ったりなどし、食べているアピールをする、
手で押さえる、または「まだ食べている」とすかさず言わないと、
次の瞬間には他のお皿の上にナプキンなどのゴミやら
他の食器やら、なんでもひとまとめにした上で持っていかれる。

香港人はせっかちなのだ!
これでもかというほど、「TIME IS MONEY(時は金なり)」の精神が染み付いている。




窓からビル、そして海が見える。
夜になって知るのだが、この海こそが、
100万ドルの夜景」で有名なビクトリアハーバーだった。


そしてこれも後に知るのだが
ホテルから道路を挟んだ向かいにある、
ビクトリアハーバーの目の前に聳える巨大な建物こそが
バレエ団の本拠地である劇場「香港文化中心(Hong Kong Cultural Centre)だった。

尖沙咀(Tsim Sha Tsui)のホテルYMCAから見える、写真の手前左半分を占める建物が香港バレエの拠点「香港文化中心」

カンパニーがペーペーの新人ダンサーに用意するホテルということで
あまり良い環境を期待していなかったのだが、
どうやら一等地に立つそこそこ良いホテルを用意してくれていた。

カンパニーから事前に届いていた香港に案内e-mailによると
1人での滞在なら1週間、他の新人ダンサーと2人でシェアをするなら2週間、
ホテルを用意してくれるという。

初めての国での家探しがどの程度大変かもわからないので、
2週間の家探し期間を確保するのと、新人ダンサーと入団前に顔馴染みになっておくためにも、2人でシェアすることを選んだ。

(結果は大正解。この後家探しに結構な時間を費やすこととなる。)

僕の到着が先で、しばらくするとホテルのルームメイトであるイギリス人のSolomonは数時間後に到着。

空港で買って行ったクッキーなんかをあげつつ
お互い自己紹介をする。
意識もしなかったが、お土産を用意して行くのって
The 日本人の特徴。


お土産といえば、東京ディズニーランドはウォルト・ディズニー社が乗り気でなかったディズニーランドの日本進出に際し、
ディズニー社直営では無く、世界初のフランチャイズとしてオリエンタルランドが誘致し契約を結ぶが、当初は成功せずにすぐに閉園すると思われていたという。
ところが予想に反し、東京ディズニーランドは順調に売り上げを伸ばした。
それを見たディズニー社が今度は自社で海外進出(アメリカ以外の国への展開)に着手する。
ディズニー社の誤算の一つと言われているのが、まさに日本人のお土産文化
日本人は出かけると十中八九お土産を買う。それも、家族のみならず、友人やご近所さんなんかにも。
オリエンタル社はこれで大成功を納めた。ディズニー社がリスクを取り建設費などを投じて直営で東京ディズニーランドを開園していたら、今頃違うディズニーランドになっていたかもしれない。
個人的には日本の企業が手がけたからこその今の成功だと思うけど。

閑話休題



話がとっても逸れてしまったけど、
例に漏れず、日本人の僕は初対面のルームメイトSolomonにお土産のクッキーを渡し、喜んでもらう。
日本のお菓子って美味しいもんね。


"I like your shoes" (君の靴いいね!)と言ってもらった時には
靴とか服を褒めるのってよく聞く欧米の文化だ!なんて
いちいち小さいことが刺激的



ちなみに彼はとても才能のあるバレエダンサーだったが、
香港バレエ団の後、英国ロイヤルバレエ団に入団、
その後数年でバレエを辞め、ロンドンでモデルや俳優、プロデューサーとして多彩な活躍をしている。



学校の英語の勉強はある程度できても
生きた英語がわからなかった僕はSolomonとほとんど喋れない。
今思い返すと、彼にしてはゆっくり話してくれていたのだけれど
当時の僕は何の話をしているのか、と着いて行くのに精一杯。
やっとわかっても、僕の返事を用意するのに時間がかかる。


するとお互いそんなに話すこともなくなり、
2人きりで手持ち無沙汰になって何をしたら良いかわからなくなった時なんかは
何か作業をしている振りをしてみたりして。

何をやってるんだか。


それでもちょっとずつ打ち解け、
その日の夜は一緒にご飯を食べに行く。

英語ほとんど喋れない人にとって
英語しか話さないイギリス人と2人きりでご飯って、結構レベル高いのね。


夕食後は「100万ドルの夜景」ヴィクトリアハーバーに。
職場である劇場が建っているまさにこの場所からこの景色が見えるって
どれだけ贅沢なことなんだろう。

尖沙咀からヴィクトリアハーバー、香港島を臨む


ところで今書きながら冷静にこの状況を思うと
ろくに喋れない初対面の男2人が夕食後にこの夜景鑑賞。

・・・シュール。

その時はそんなこと全く感じなかったけど、シュールね。


"Beautiful" とか "Amazing"とか言って
ほぼ会話もせずにしばらく夜景を観たあと、
2人でYMCAの部屋に戻った。


どうやらSolomonは時差ボケで眠れないらしい。
ありがたいことに日本と香港の時差は1時間だけなので
僕はお先に眠ることにした。


そんな感じで初めてだらけの海外生活1日目が終わった。

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