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初めての一人暮らしが海外だった話

2012年のことだからもう12年も前の7月27日。

僕は羽田空港の国際線ターミナル(現第3ターミナル)で1人号泣していた。

22歳にもなった男が一人、空港で静かな大泣きをしていたのだ。


23区外の田舎町とは言え、一応東京都で育ち、高校も割と実家から近く、
大学に進学せずにひたすらバレエに打ち込むことを決め
結局留学もせず10歳でバレエを始めた時からお世話になっていたバレエスクールにほぼ毎日通っていたのも実家から。

高校卒業と共にいただきはじめた
舞台のお仕事も実家から通っていた。



そんな僕が22歳の羽田空港で初めて親元を離れた。

もう立派な成人だし、大学4年生の年齢なので
親元を離れるのには適しているというか、一般的によくある時期である。

それでも大泣きした。

初めての一人暮らしがいきなり海外、という不安ももちろん大きかった。
空港まで両親に見送ってもらい
出発前の保安検査場のゲートで
父親から「元気で頑張って」と握手。

そして母親に泣きながらハグされたときに
僕も耐えきれず泣き出してしまった。

出発口から保安検査場に進み、
パスポートコントロールを通っても、
なるべく見えなくなるまでずっと後ろを振り返って手を振っていた。
(我ながら可愛い親子)



112番搭乗口に早めに着いて、待合ベンチに座ったら
ぽろぽろ、いや、ぼろぼろと涙が溢れた。

友人から応援のメッセージや
「いってらっしゃい」「そろそろ飛ぶの?」などのメールが
Docomoの二つ折り携帯電話に届いていた。
(そう、当時は携帯電話でメール。)

中には留学経験のあるダンサーたちからの
「空港でのその気持ち、わかるよ!不安だし寂しいよね!」
「数ヶ月後、香港に遊びに行くからね!」
なんてメールも続々と届く。

応援してもらったり、気持ちに寄り添ってもらって嬉しいのと同時に
みんなは呑気で良いなぁ😭
でも今のこの気持ちは他の誰にもわからない😭
なんて、とっても若く青い、独りよがりなことを思いながら🤭


感傷に浸りながらも、
やることはやらなければならない。

飛行機の搭乗時間はやってくる。
飛行機に乗っても時々押し寄せるこの気持ち。

飛行機に続々と乗ってくるお客さんたち。

海外に出る時は、気を張っていなければならない。

これだけはしっかりと自分に言い聞かせていた。


僕は初めての一人暮らしを海外で始めるのだ。
必要だと思うものを大きなスーツケース3つに詰め込み、
身の回り品に現金約30万円だけを入れて飛行機に乗っているのだ。
予備として日本のクレジットカードも持ったけれど
それは非常時以外は使わないと決めていた。

日本から出た経験が
14歳の夏休み、アメリカでの2週間のホームステイ、
そして数ヶ月前の香港バレエ団でのオーディション以外に無かった僕にとって
いかに神経を研ぎ澄ませ、自分を強く持てるかが重要だった。

僕は初めての一人暮らしを海外で始めるのだ。
必要だと思うものを大きなスーツケース3つに詰め込み、
身の回り品に現金約30万円だけを入れて飛行機に乗っているのだ。

初めての一人暮らしが海外だった話1 ー 9行前より

もうしかしたら飛行機でスリに合うかもしれない。
化粧室にと席を離れている間に
パスポートや大事な書類、
そしてこの瞬間の全財産といっても過言ではない
30数万円を、しかも知らない間に取られてしまったら
文字通り途方に暮れてしまう。

僕は緊張で、フライト中ずっと背筋を伸ばして座っていた。

気を張っていたのもあり、飛行機オタクな僕でも
当時の機種、機内や機内食を覚えていない。



日本ー香港というのは意外と近いもので、
5時間もすれば飛行機は香港に到着。

他の旅行客や出張客と一緒にパスポートコントロールに長い列を作る。

パスポートと、事前に香港バレエ団から送られてきた
香港政府発行の就労ビザを職員に提出する。

「おー、これはこうやってここに貼るんだよ。」

どうやらビザはシールになっていて、
パスポートのページに貼っておくものらしかった。

こうして無事に香港に入境を果たし、
カートに大きなスーツケースを3つと
大きなリュックサックを載せる。

到着ロビーのベンチで家族に到着を知らせ、
買ったばかりのMacbookを広げて
空港のWi-Fiを拾い、これからどうするかを確認。


香港バレエ団はいろんな国からダンサーが集まる国際色豊かで、
今思えばありがたいことに入団前からとても親切な対応をしてくれるカンパニーだった。

入団時にはその直前に滞在している国からのフライト
そして家を探すまでに必要な1週間ー2週間ホテルも用意してくれた
世界中のカンパニーを見回してもこういうことをしてくれるバレエ団は稀ということを後で知った。

ビザ取得の手引きや必要書類、
香港入境してからホテルまでの行き方、
携帯電話契約会社のリストや家探しのおすすめサイトまで
色々まとめてメールで送ってくれた。



オフラインでもすぐに手元に情報があるように、
必要なことを全て書き記した手帳を肌身離さず持っていたが、
やっぱりオンラインでメールをもう一度確認できると安心度が違う。

メールではホテルまでの行き方をご丁寧に3パターンくらい紹介してくれていた。
おすすめとして
「エアポートエクスプレスという電車に乗り、九龍駅からタクシーに乗るのが便利」と書いてあったのでそうすることにした。

なんと空港の到着ロビーに沿って駅がついている。
階段どころかエレベーターもいらない。
改札も無く、大荷物を乗せたカートを直前まで引いてホームに行けるのだ。

切符を買い(当時は90HKD)ホームに入ると
特急電車はすぐにきた。
静かで快適な電車で、旅好きの僕は
もう少し乗っていたい」とここでようやく思った。

大好きな飛行機の中では緊張でそんなこと思う余裕が無かった

降りた駅で改札を通り、タクシー乗り場へ。



タクシーは日本のタクシーとして長年大活躍していたクラウン コンフォート。
今の時代、やっと新車が増えてきた香港のタクシーなのだけれど
当時はほぼ全車両が日本で活躍を終えた中古のタクシーで、
塗装は香港仕様、必要な案内表示のシールは上から貼ってあり、
それ以外の内装は日本でのタクシー会社の文字などもそのまま残ったまま、
香港の街を走っていた。
(タクシーのご用命は⚪︎⚪︎タクシーへ TEL 03-1234-5678 を外国のタクシー車内で見る不思議な感覚)

イギリス統治下に置かれていた香港は日本同様左車線・右ハンドルなので、
そのまま使うのに持ってこいなのだろう。

そのクラウンのトランクに、スーツケースが入りきらない。
すると運転手さんはすぐさまスーツケースを3つ、寝かせずに横に並べる。
うまく文字で表現できないこの状況、想像できた方もいると思うが、
この方法だとスーツケースの端がトランクからはみ出る
すると運転手さんは先にフックの付いた伸びるロープを
トランクの蓋(扉)部分と車体の下にくっつけ、
トランクの蓋が開いて荷物が落ちるのを防止する。

これ、香港に住んでいる人ならお馴染みの光景なのだが
初めて見た僕には充分なカルチャーショックだった。

だって、ロープで固定しているとは言え、蓋が空いた状態で平気で高速道路走るんだこれが。
外を見ると、他にもこういうタクシーがちらほら。

自分の荷物が後ろに落ちていかないかとヒヤヒヤした😅



話を戻し、タクシーに乗り込んだ僕。

宿泊するホテルがYMCAという名前だったので
広東語どころか英語もほとんど話せなかった僕でも
行き先を告げることができた。
(そしてもし英語が全くわからない運転手さんだったとしても
YMCAの4文字は通じる)

ホテルまでの道中、香港の街を駆け抜けるタクシー車内。
車内はたった数時間前までいた世界とは違い、
繁体中文と英語の料金表や案内表示、窓の外には香港の街並み。
先ほどまでの涙はどこへやら、これからの新生活への希望でいっぱいになるのだった。



初めての一人暮らしが海外だった話  つづく






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