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身近に欲しいな!こんなゴルフ場


ゴルフをする楽しみってなんだろう? 人によっても違うけれど、それぞれのプレイスタイルでゲームを楽しむことだと思う。家族や友人たちとたわいない会話をしながら白球を追いかける。良いショットもあればそうでないショットもある。長いパットが一発で決まることがあれば、わずか50cmくらいのパットを外すこともある。競技でなければ一つのショットに一喜一憂することがゲームを面白くしてくれるからだ。
ゴルフ場は各ホールが変化に富み、ホールごとに異なる攻め方が必要でグリーンとティグランドがある程度整備されていればゲームは十分楽しめる。しかもプレイ料金がリーズナブルでプレイスタイルの選択肢がいくつもあればそれに越したことはない。誰もがゴルフを気軽に楽しめるからだ。
そんなゴルフ場があるだろうか?

ニュージーランドのパブリックコース

あった。3年前にニュージーランドを旅した時、南島のクイーンズタウン近くにあるアロータウンゴルフクラブがそんなゴルフ場だった。プレイヤーのほとんどが地元のゴルファーなので9Hなのか18Hのプレイなのかを選択して、プレイ申込書に必要事項を記入し所定の料金を備え付けの封筒に入れてHonesty Boxに投函するだけで手続きは完了。駐車場でスパイクに履き替え、車に積んできた手引きカートを下ろしてバックを載せスタートホールに進んでプレイ開始となる。受付などなくもちろん人もいない、Honesty Boxというものがあるということは、ゴルファーの信頼の上に成り立っているコースなのだ。

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乗用カートに乗りたければプロショップで所定の料金を払ってキーをもらいバッグを積んでスタート。しかし、ここでは担いでプレイする人が圧倒的に多い。
パッティンググリーンやアプローチエリアでは自分たちの子供たちにゴルフを手ほどきしている。練習だけに来る人もそれなりにいるという。料金なんてかからない。ここには堅苦しさはない。そして、クラブハウスはまさにコミュニティスポットとして仲間が集まってビールやワインを飲んで会話が弾んでいる。あたかもパブやバールで楽しんでいるように。
このように生活の中に溶け込んでいるゴルフ場が羨ましかった。日本でもこんなところがあればいいな、と思い続けていた。

岩見沢パブリック雉ヶ森ゴルフコース

あった、日本にも。北海道岩見沢市にある岩見沢パブリック雉ヶ森ゴルフコースは自分が探していたゴルフコースそのものであった。数年前までこのコースは雉ヶ森カントリークラブという60年の歴史を持つプライベートコースであった。札幌からは50分、千歳空港からも50分の距離は観光客や札幌近郊に住む人たちにとって微妙な距離で、アクセスが良く手入れが行き届いている名の知れたコースにゴルファーは流れている。
ゴルフ人口の減少傾向が続く中、過疎の町のゴルフ場は経営が厳しい。冬季のクローズはさらに追い打ちをかける。そうなるとコース整備にも十分な資金が投入できず、悪循環が始まる。
入場者が予定した人数に達せず、当然コース管理費は縮小を余儀なくされるとグリーンやティグランドの手入れはおろそかになり、特にラフは草が伸び放題となってロストボールが多発する。地元のゴルファーにまでも「二度と来たくない」と見放されたコースに転落を余儀なくされていた。

雉ヶ森CCといえば北海道地域としては早くから開場してそれなりの歴史のあるコースで「最初は皆、ここでゴルフを覚えたものだ」と言われていたところがこの惨状である。そしてオーナーは売却を決断しロックフィールドゴルフリゾート(株)という会社が買い取って再建に乗り出すことになった。2019年のことである。
わずか3年前に立ち上げたロックフィールドゴルフリゾートという会社は「ゴルフをもっと気軽に楽しめる、ゴルフをもっと人々の身近に、生活に溶け込んだものを目指す」というコンセプトで8つものゴルフ場を買収してゴルフ場再建に乗り出してきたユニークな会社である。ゴルファーが減っていくというこの時代に。

一人の男の情熱がコースに息吹をもたらした

ゴルフ場の再生をコース管理という観点で任され入社した鈴木弘美さんはコースを視察した後「ぜひ、岩見沢の雉ヶ森の再生は私にやらせて欲しい」と志願して支配人として赴任してきた人なのだ。
鈴木さんは「今まで富裕層がプレイするゴルフ場ばかりを作ったり改造したりしてきたが、ロックフィールドの考え方と自分がやりたいことが一致していたことが分かり、今まで学んできたことを多くのゴルファーが楽しめる、そのようなコースを手がけたい」と単身で岩見沢に住み着いて、自ら先頭に立ち荒れ果てたコース整備に奔走した。
昨年はオーナーの岩田さんをはじめ、系列のゴルフ場の支配人やスタッフにゴルフ場にきてもらい、フェアウェイの目土、雑草の駆除、シバザクラの植え込みなどまさに会社をあげての手作業でコースの復旧、大改造が行われたのである。
映画<Field of Dreams>を観た方はわかると思うが、まさにその世界なのである。鈴木さんの考えも同じようなもので、いつか、いつの日にかこのような田舎のゴルフ場にトップレベルのゴルファーからアベレージクラスのゴルッファーまで地元の人はもちろん日本や世界各地からゴルファーが訪れ、この場所でゴルフを楽しんでいる姿をイメージしながら少しずつ改良を加えていったのだ。伸び放題のラフは短く刈り込み、危険な斜面の芝刈りは鈴木さんが率先してハンドルを握って芝刈り機を走らせていた。それこそ命をかけてである。痛んでいたグリーンも素早く手を入れて修復に努めた。

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グリーンは敢えて硬く、速くして競技レベルのゴルファーでも満足するレベルまで仕上げ、様々なゴルファーが楽しめるようにとティグランドの数も増やした。
こうして整備に着手して一年ほど経った頃、地元のゴルファーたちが支配人に面会を申し込んできた。
「鈴木さん、他のところには行かずに、ずっとここにいて欲しい」と懇願したのだった。鈴木さんの本心は、整備が終わったら自分のここでの役割は終わり、新たなコースの改造の手伝いをしようと思っていた。しかし、「自分のやってきたことがこういう形で地元の人たちに認められたことが一番嬉しい」と笑顔で鈴木さんはそう話してくれた。

鈴木支配人の行動は一般的なゴルフ場の支配人とは全く違っている。コース管理の方法を残ってくれたわずかなスタッフに伝え、整備が難しかったり、危険な場所は自ら率先して行う。営業を再開した食堂のメニューも美味しいと評判の店を回り参考にして自分で作る。食材はもちろん地元で採れるものを最優先に、ふんだんに使う。小さなこだわりが随所に見える。
スループレイが標準の北海道では昼食をクラブハウスでとる習慣がないところなのに、オリジナルメニューが評判となり、それを目当てに来場する人も出始めているという。
もちろん自ら厨房には入ってスタッフのサポートをする傍ら、配膳もしながらゲストのプレイヤーに意見を聞くことを励行している。まさに自分の家に来た仲間に、精一杯のもてなしを施している感である。

プレイを終了した女性ゴルファーには作業中に刈り取った山菜をお土産として手渡している。細やかでさりげない心遣いだ。スタッフもマルチタスクを当たり前のようにこなしている鈴木さんの行動を見て、自分たちもマルチタスクで応える。自分たちのゴルフ場、という感覚がここでは当たり前になっている。

もう一つコースデザイナーとしての鈴木さんのこだわりが憎い。財政的な部分からカートにはGPSナビなどは付いていない。しかし、フェアウェイにはグリーンエッジから150ヤード、100ヤードにマークを埋設し、毎日ピンポジションを示した表を乗用カートのハンドル部分に差し込んでいる。コースを熟知している人は、ピンポジション表を見てボールをどこに落としたら良いかを判断している。「鈴木さん、今日は難しいところにピンを切ったな」と。
レベルに関係なくプレイヤーが持っているクラブを全て使わせるような細かな配慮がティーマークの位置、ピンポジションに現れている。
ゴルフをそしてゴルファーを愛している人の行いだ。地元のゴルファーが、ここにいて欲しいという理由がよく分かる。みんな鈴木さんの情熱に動かされたからだ。

ここ雉ヶ森ゴルフコースは本物のゴルフコースだと私はそう思った。ゴルファーのためのゴルフコースだからである。ゴルフ場の価値を決めるのは立派なクラブハウスや会員権の価格、過剰とも思えるサービス、プレイ料金ではなく、ゴルフを知っている人がプレイヤーの楽しめる要素を盛り込んでコースの戦略性やそのためのコース整備をしっかりやっているかどうか、だと思っている。
誰もが気軽にプレイでき、プレイヤーがゴルフ場という場所でゴルファーとして人として成長させてくれる、そのようなところが本当のゴルフ場の価値ではないだろうか。

身近なニュージーランド

#5ホールのティグランドから見る景観は、もしそこに羊が放牧されていたらニュージーランドのゴルフ場と錯覚するくらいの景観と雄大さを感じる。
雉ヶ森ゴルフコースは<身近なニュージーランド>というイメージがぴったりだ。

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プレイ料金は平日18Hで¥3,900(税込)、週末でも¥5,400と信じられないものである。この料金ならいろいろな活用方法が考えられる。ニュージランドに行かなくてもリーズナブルな金額でミニトリップが楽しめるからだ。近くには温泉もあり、ロッジホテルもある。私ならゴルフを楽しみたい方や初心者を集めてゴルフ塾的なものを3泊4日くらいの日程でやってみたい。ゴルフの面白さをプレイするだけでなくクラブの話、スウィングについてそして鈴木さんに登壇していただきゴルフコースとはどのような意図を持って作られているかを話してもらうもので。夜は満点の星空の下でのジンギスカン料理やBBQ、コースの隣にあるワイナリーからワインを取り寄せて至福の時間を過ごす。ニュージランドそのものだ。

ゴルフトライアスロンを雉ヶ森で

鈴木さんから「ゴルフトライアスロンを雉ヶ森でやってみませんか、適度なアップダウンがあるから面白いと思うよ」と提案を受けた。ゴルフトライアスロンの会場を探すのに苦労している中で、この提案は大変ありがたいものである。つい先日視察に訪れた時「マウンテンバイクを1台用意しておいたのでプレイ終了後試走してみて」と言われ18Hを走ってみた。距離は1周(18H)7.9km 約30分の走行は気持ち良かった。アウトとインのスタートと最後は厳しい下りと登りが待ち構えていてランニングも負荷がかかり競技をするには面白い。
腕自慢、足自慢に参加してもらったら良いレースになると見る。同時にゴルフトライアスロンのトレーニングコースとしても利用価値は非常に高い。体験会・練習会や合宿も企画したいと思っている。

何れにしても雉ヶ森ゴルフコースは新たなゴルフ場の一つの形としていずれ注目される存在になるだろう。そして、このようなゴルフ場が増えなければ日本のゴルフは闇に閉ざされたままだ。希望の光が見えるところにはまだ距離がある。
コロナによって新規ゴルファーが増えている。そんな彼らにここでゴルフを覚え、楽しさを感じて欲しい。プレイスタイルが自由だからだ。

岩見沢パブリック雉ヶ森ゴルフコース、私の好きなコースがまた一つ増えた。

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