ア・タ・シ・が主役(SS;1,700文字/エレクトロニック・ショート・ショート・カタログ)
昼メシを家で食べようかと思ったのは、外回りをしているうちに自宅の近くまで来たことに気付いたからだ。
「急に帰っても、何かあるだろう」
社内結婚して5年目になる妻は、二人目の子供が生まれた時に会社を辞めていた。長男を幼稚園に送り出した後、まだ乳児である次男の昼寝に合わせてゴロゴロしているはずだ。
「ただいまあ」
「あ、あなた、どうしたの? こんな時間に?」
案の上、テレビの前で寝転がっていたらしい妻はあわてて立ち上がった。スイッチを切ろうとした彼女をさえぎり、私は言った。
「いいよ、ドラマ見てたんだろ? たまのことだから、一緒に見るよ」
「え? ‥‥でも」
「今日は少しゆっくりできるんだ。この番組が終わってから、昼メシにしてくれよ。お、昼メロってやつだな? ‥‥おい、どけよ、見えないじゃないか」
妻はソファに座った私の横に来た。テレビ画面では、若手二枚目俳優が演じる大学生が、子供を幼稚園に送りだした後の人妻を訪問し、誘惑するところだった。
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