すぐそこにある《信心》(SS;1,600文字)
今年こそ、トシヒコくんと……できますように……それから……もお願いします……あと……もよろしく……あ、そうそう……
「── 長いね、長過ぎる。そんなにたくさん頼みごとをされたんじゃ、神さま、途中から居眠り始めちゃうよ」
え? ユウタくん! なんでここに? 初詣の邪魔しないでよ!
「いや、ハルミちゃん、ボクも一応、初詣なんだけど」
あ、一番大事なこと忘れてた! 神さま、今年こそユウタくんに邪魔されずに平穏に暮らせますように……
「どうしてボクのことだけはっきり声に出すのかな? よほど気にかかっているのかな?」
ある意味、そう! 『悪魔祓い』ははっきり声に出さないと!
「それにしても、『平穏な暮らし』ねえ ── 『退屈な人生』と言い換えてもいいかもしれないね」
うるさいわね! まだお願いの途中なのに! 邪魔しないで!
「今朝早くからストップウォッチで測っていたんだけど、この神社における平均参拝時間は28秒、ハルミちゃんは既に2分を超えている。ほら、後ろに並んでいる人たち、迷惑そうな顔しているよ」
はあ? どれだけヒマなの! じゃ、さっさと終わるから、黙っててよ! ……ああ、もう、集中できない! ……どこからだっけ……わからなくなっちゃった! 出直すことにするか!
「……おみくじは引かないの?」
ユウタくんと一緒にいること自体が『大凶』なんだから、必要ないわ! ふふふ……おみくじは今度、トシヒコくんと来た時に……ま、ユウタくんには関係ないから……
「今度3人で来た時に引くってこと?」
なんでそうなるの! もう、つきまとわないで!
「ところで、大事な話があるんだけど」
何よ? ユウタくんの大事な話って、99%がくだらないじゃない。
「いや、大事な『商談』と言ってもいい」
── はあ?
「ハルミちゃん、さっき、賽銭箱に5円入れただけでたくさんお願いしていたよね?」
見てたの? サイテー!
「いや、ひとり当たりの参拝時間だけじゃなくて、賽銭金額も調べていたんだ。他人に見えないように財布から出す人に限って金額が低い、という法則を見出したばかりだ」
……そりゃ、そうでしょう。『5円』ってのはね、『ご縁』とかけて……
「ハルミちゃんはボクと同じクラスで既に『ご縁』があるんだから、その言い訳は苦しいよ……」
ユウタくんとの縁はむしろ、断ち切りたいって思ってるわよ! その『5円』だったら、火で炙って、ペンチで曲げて踏みつけたいくらい!
「ハハハ、照れなくてもいいよ。問題はそこじゃないんだ。── 知ってる? お寺も神社も、小銭をもらうのは迷惑なんだよ。ここの宮司さんと話したんだけど、今、小銭を両替する手数料が高くなってるんだ。10円以下の硬貨は困るんだって」
そんなこと言ったって、子供なんだから、お小遣いからそんなに出せないわよ。
「その通り、だからさ、これからはお賽銭は入れるふりだけの『エアー散銭』にして、そのお金は ── 5円でも10円でもいいから ── 僕に渡して欲しい」
ユウタくん、いつから神さまになったのよ!
「いやいや、クラス全員の ── できれば学校全体の ── 少額のお賽銭をとりまとめて、ボクが神社に納めるのさ。たとえひとり5円でも、20人分集めて、ボクが代表者 ── というより両替商? ── として100円玉で納めれば、神社側もハッピーのはず」
じゃ、アタシたちのお願いはどうなるの?
「ボクが聴くからいいよ。ボクが代理人として神さまに話しておくから」
それ、みんなが ── 第一、このアタシが ── 信じると思う?
「そこだよ!」
何よ、大声出さないでよ。
「そこがハルミちゃんの信仰心が問われているところなんだ! 神さまもそれを見てるんだよ!」
ああ、バカバカしい……家帰ってミカンでも食べよ。
「待って! 今、この瞬間にハルミちゃんもボクも、神さまに試されてるんだ!」
誰か、助けてえ! ストーカーでーす!
ハルミちゃん登場は1年半ぶりぐらいになりますので、知らない読者もおられることでしょう: