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無敵の受験生(SS;2,100文字/エレクトロニック・ショート・ショート・カタログ)

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 直彦ちゃんが3年目の浪人生活に入ったとき、ついに堪忍袋の尾が切れました。もちろん、小さな頃からとっても素直で頭が良かった直彦ちゃんに対して ── じゃ、ありません。
 あたしの大事な直彦ちゃんとその将来を託していた予備校に対して、ですわ。

「どういうことなんです? 2年間も授業料を取っておいて志望校に入れないなんて。それでも受験のプロと言えますか?」
 最後の志望校が合格者を発表した翌日、あたしは予備校に行って猛烈に抗議しました。でも、間抜けな顔をした校長は当惑したように答えたんです。
「当校ができるのは、あくまでも受験のためのお手伝いであり、準備段階までなんです。言うまでもありませんが、受験はお子さんがひとりで立ち向かわなければならない戦場です」
「ウチの直彦ちゃんは、昨日なんか大荒れに荒れて家中の物をひっくり返し、止めようとした夫に、惚れ惚れするくらい見事なカウンターパンチをくらわせたくらいなんですのよ。
── ええ、夫は今日会社を休みましたが、そんなことはどうでもいいことですわ。ああ、直彦ちゃん、本当にかわいそう! それでもあなたは予備校に責任がない、とおっしゃるのね?」

「お言葉ですが……」
 校長は資料のようなものを手にして言いました。
「直彦君の予備校出席率は30%に満たないのです。チューターの聞き取りによれば、繁華街で遊び歩いているらしい、ということでした。模擬試験は受けに来るのですが、やる気がないのか、白紙で出す時もありました。そんな彼が受験に失敗するのは、《当然》── というのは言い過ぎにしても、《必然》でしょう」
「なんですって!」
 ええ、その校長の顔面には、あたしが直彦ちゃんに負けないくらいのパンチを浴びせて帰って参りましたわ。

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