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鏡よ、鏡(SS;2,300文字/エレクトロニック・ショート・ショート・カタログ)

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「おい、もう出ないと間に合わないぞ! 一体、何時間かかってるんだ」
 しびれを切らした私は、鏡台の前から動かない妻に怒鳴った。
「だってえ、髪がうまくまとまらないんだもーん。服だって、どれにするか迷っちゃうし」
「何い? まだ、そんな事言ってるのか」
「ねえ、口紅の色、ちょっと濃すぎるかしら?」
「それでいいんじゃないか。さっさとしろよ。開演まで30分だぞ」
「いい加減な返事しないでよ。このワンピースの色、どう? 少し派手かしらねえ」
「いーや、よく似合ってる、似合ってる」
「もう! 気がないんだから」
「服なんか、どうでもいいじゃないか。芝居見に行くだけだぞ。ぐずくずしてると置いて行くぞ」
「いや! あたし今日、なんか自信なーい。行くのやーめたっと」
「ええ? 今さら何言うんだ!」

 珍しいことではない。お互いひとりっ子の両親から生まれたひとり娘である妻は、幼い頃から親と4人の祖父母に褒められて育った。そのため、褒められないと自信が持てないという、厄介な性格になってしまった。

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