演出幇助(SS;4,400文字/エレクトロニック・ショート・ショート・カタログ)
薄暗かった社殿の舞台中央に、突如、天井までを貫く太い光の柱が出現した。天上人の歌声のような音曲がどこからか流れ始め、次第に音量を増した。
「さあ、教主様のご降臨です!」
厳かな中にも希望と期待に満ちたアナウンスが社殿ホール全体に響き渡った後、黄金色に輝く巨大な屏風を背景に、眩い光の柱の中をゆっくりと一人の女が降りてきた。聖母マリアのような白いトーガを身に纏い、目を閉じたまま両手を胸の前で組んでいる。
ホールを埋め尽くした数千人もの信徒たちは固唾を呑んでこの光景を見守っていた。中には教主・葦原采女と同じように目を閉じて両手を組んでいる者もいる。
信徒たちは目を凝らすが、《教主様》の足下に台のような物は何も見えない。宙に浮いたまま下降しているとしか考えられない。
「おお、おお、……奇跡だ」
「これは……たまげた」
そんな囁きがさざ波のようにホール内を伝播する。
下降の途中で教主・采女は右手を前方に差し出した。すると、その掌の上に光が集まり、やがて光は小さな人の形となった。
「あ、……あれは、て、天使では?」
「間違いないわ! ああ……」
幼児ほどの大きさの、頭上に輝くリングをいただいた天使状の物体は、采女の掌の上で跪き、彼女に向かって手を合わせた。
「おおう……、おおう……」
声にはならない感動の響きが、信徒たちから一斉に湧き上がり、ホールを共鳴させた。既に半数以上の信徒は、とめどなく涙を流している。
やがて、采女の体はゆっくりと舞台の上に降り立った。光の柱は彼女の体に吸い込まれたかのように消え、今度はその体が光源になったかのように眩く輝き始めた。
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