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「ああ……隣の教室との壁に穴をあけてチョークの粉を噴き出していた人ね」

日間賀島探検から名古屋に戻り、クラフト生ビールの店で打ち上げをした時、探検隊に参加したいと数か月前にメールを送って来た高校同級生(♂)の話題になりました。

彼からはその後まったくメール応答がなく、自宅に電話したら奥さん(この人も同じ高校)が出た。

・彼(勤務医)は非番の日には朝から飲み始めて泥酔する
・たぶん朦朧とした頭で「行きたい」と思ったのだろう
・でもメールに書いたことは憶えていないと思う
・私は彼を『アル中ハイマー』と呼んでいる

彼の名(既に書いたエピソード記事で使った、K君としましょう)を挙げると、打ち上げの場にいた女性が、
「ああ……隣の教室との壁に穴をあけてチョークの粉を噴き出していた人ね」
呆れ顔で言いました。
K君は私の1年時の同級生、彼女は3年で同じクラスであり、両者に直接の接点はなく、伝聞情報のようでした。

「ああ……そういうこともあったな」
脳内で片隅に押し込まれていた記憶がよみがえりました。

その頃、1年の教室で最後列の席だったK君は、授業中、退屈のあまり、彫刻刀で後ろの壁を掘り始めたのです。壁はしっくいのような白い素材で、その粉は床に散らばりました。
私はすぐ前か横にいたので、一部始終を目撃していました。

『青の洞門』を開削した僧・禅海ではないけれど、彼はこつこつ、洞門を掘り進めました。

最終的に『洞門』が開通するのに3週間ぐらいかかったかもしれない。壁の厚みは4センチほどだっただろうか。

さて、隣のクラスとの間に直径2センチほどの穴はあいた。
しかし、『掘削プロジェクト』は手段というより目的だったため、『開通』後、K君は頭をひねったかもしれない。
そこで彼は、後ろの黒板にたまったチョークの粉を『洞門』につめ、授業中に思いっきり吹き飛ばす、というショーを開始した。

こちらが授業中ということは、当然、隣のクラスも授業中である。こっち側は教室の最後部だけれども、『洞門』の向こうは隣のクラスの最前部 ── 前の黒板のすぐ脇 ── ということになる。
K君がそれを認識していたか? ── それはわからない。

彼が何度か『チョーク粉煙幕作戦』を行った後、廊下の足音に続いて教室後方廊下側の引き戸が猛烈な勢いで開き、鬼形相の数学教師 ── 隣クラスは数学授業中だったらしく ── が駆け込んできて、
「こおおらあああああああ!」

『洞門』プロジェクトはここであえなく終わりましたが、『洞門』自体はずっとあいたままでした。私は時々、隣クラスの気になっている女の子が見えないかな、と覗いていました(でも、あまりに視野が狭く、室内のほんの一部が見えるだけだった)。

その後、K君はかなり唐突に、
「バンドやろうぜ!」
と言い出し、生ギターを弾いていた私も巻き込まれ、5人でロックバンドを作りました。
高校2年の文化祭における『悲喜劇』は以下に書きました:

体育館ステージでの演奏にしり込みするメンバーに、

「1学年下の彼女に『体育館で演る』と宣言した。今さら引っ込められるか! 嫌だというヤツはオレが殴る!」
とK君が顔を真っ赤に咆哮するので、仕方なく従った。

── と書きましたが、その彼女が半世紀後の今、

・私は彼を『アル中ハイマー』と呼んでいる

と語るのも、個人史の長さを感じさせます。

後日談にも書きましたが……

M君のことを『個性的な人物で…』と表現しましたが、おそらく世間は彼よりも、バンドリーダーK君を、より個性的と呼ぶでしょう。
彼の家でギターの練習をした時、母親が、
「この子が小さい時から、私は近所や学校に謝り続けで……」
となぜか私に語ったのを想い出します。

LIVEバク転後日談|谷 俊彦

もうひとつ、K君がらみのエピソードを書きましょうか……。
こちらはかなり波紋を呼びます。

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