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続『悪意』のアンテナ(【新作】SS;4,000文字/エレクトロニック・ショート・ショート・カタログ)

印刷版には掲載されていない新作です。
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「……ったく、あんな物、作ってくれるものだから……」
 彼女は忌々し気に車の後部座席から街を眺めた。

 オフィス街はちょうど昼休みの時間帯だった。
 歩道を行く人はほぼ例外なく、頭にカチューシャを装着している。そのカチューシャからは、先端に球のついた2本の棒が斜め上に向かって突き出している。
「何よ、あれ! ここはどこ? アリの巣の中? それとも、奴ら何、キリギリスになっちゃったの?」
 ひとり言とわかっていても、あまりの剣幕に、初老の男性運転手は仕方なく応じた。
「……売れているみたいですね、《マリアン》
「何呑気のんきなこと言ってるの! あのおかげで次の選挙、どうするのよ! 街頭演説なんてできないわよ!」
「はあ……でも、先生は選挙カーのルーフキャリアから演説されるわけですから、あの高さまでは……」
「あんた、バカなの? ずっとあそこにいるわけにはいかないでしょ! あの候補者は上から目線だ、ってSNSで叩かれるわよ! 下に降りて握手してナンボでしょ? 有権者連中、握手しなきゃ、票入れてくれないのよ! 特にスケベジジイたちはみーんな、私に触りたがってる! 私と握手した後、手のひらをペロペロ舐めるジジイまでいるのよ、間違いないわ! ああ、気持ち悪い!」
「……はあ、いや……そんなことは……でも……先生だって……」
 運転手はルームミラーに目をやった。後部座席にふんぞり返って腕を組み足を組む『先生』の頭にはその《マリアン》 ── 相手に『悪意』があるかどうかを検出するセンサー《Malice Antenna》 ── が装着されている。
「何よ! だから私が付けてちゃいけないっていうの? これはね、週刊誌の記者がどこに潜んでいるかわからないから用心のためじゃないの!」
「週刊誌の記者って、『悪意』があるんですかね?」
「当り前じゃない! 奴ら全員、ゴロツキよ! 隠しマイクと隠しカメラを潜ませて、罠かけてくるの! 秘書の給料がどうとか、選挙対策の金をばら撒いたとか、……ったく、あることないこと書いて、記事が売れりゃあ、それでいいのよ、金のために仕事してるだけじゃない!」
(それは先生も……)
 運転手は思ったが、もちろん口には出さなかった。
「で、今日はなぜ、そのESC社に?」
「この事態 ── 1億総アリさん状態をなんとかしてもらうために決まってるでしょ! 製造者責任をとってもらうのよ!」

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