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にぎやかな背中(SS;2,100文字/エレクトロニック・ショート・ショート・カタログ)

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 その晩は、いつものスナックに着流し姿で立ち寄った。
 しばらくした頃、若い2人のチンピラがサラリーマンらしい男に言いがかりをつけ始めた。
 ひとりで飲んでいた男の肘が当たった、詫びを入れろ、と言うのだ。
「あんたたち、やめなさいよ」
 ママが間に割り込もうとしたが、黙ってろ、と逆に凄まれた。
「おい」
 隅で静かに冷酒を飲んでいた彼が口を開いた。
「楽しく飲んでるお客さんに迷惑かけるんじゃねえよ」
「なにい!」
 チンピラのひとりが椅子から降りた。
「おっさん、余計な口挟むと、怪我するぜ」
「ここじゃ、物が壊れる。外へ出るか」
 彼はそう言いながら片袖を脱いだ。その背中では、目をむいた般若が火を吐きながら咆吼する龍を従えていた。
「あっ、いっ、いえ、どどどうも失礼しやした」
 見事な刺青を目にしたチンピラたちは急にしどろもどろになり、逃げるようにして店を出て行った。

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