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《触角》が教えてくれた《王子様》(SS;2,700文字/エレクトロニック・ショート・ショート・カタログ ✖ バイオテック・ショート・ショート・カタログ)

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「お前たち、脳みそあるのか? あるならちゃんと使ってるのか? オンラインだからって、寝てんじゃねーぞ!」
 中川課長が怒鳴った。今日はこれで3回目だ。

(……そっくりそのまま、アンタに返したいよ)
 そう思ってるのは、俺だけじゃないだろう。バイオテック・ショート・サーキット(BSC)社の新製品企画会議で、何か無いか、と尊大な御用聞きのように繰り返すだけで、自分のアイディアを一切出さない、いや出せないのは、課長、アンタだ。

「あのう……」
 俺は仕方なく、モニター画面の《挙手》ボタンをクリックした。
「お、なんだ、なんだ、ようやく脳みそ使い始めたか?」
「あのう、ただ、二番煎じ、……ではあるんですが」
「何いい?」声に険が入った。
「── まあいい、言ってみろ」
「前回のウチのヒット商品は、往年の大ヒット、エレクトロニック・ショート・サーキット社発《コメミ》の『パクリ』だったじゃないですか?」

「その、『パクリ』って言い方、やめてくれる? グレードアップしたリバイバル商品って言ってよ!」
 前回ヒットの立役者、西村がクレームを付けた。
 《コメミ》とは、オーナーの容姿や服装を、とにかくホメちぎる機能を持つ鏡、《コメント・ミラー》だ。かつての大流行が過ぎ去り、すたれていた《コメミ》を、西村はスマホアプリとして復活させたのだ。

「で、今度は何だ?」
《マリアン》ですよ!」

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