タイで出家した日本人と『故郷の遠い星』を想う
タイ在住の旧友と12年ぶりに現地で会った翌週、帰国後早々に名古屋で彼と呑むことになりました。
場所は黒川・ガスビルの地下にある『厨一里』。魚の美味しい(しかも値段はリーゾナブルな)お店です。
彼が今週名古屋に来たのは、今年生まれた長男に日本国籍を取得させるため、自身の本籍地で手続きをするのが第一目的だということでした。
また、近くに住む娘さんと孫にも会うためだという。
「そうしたらね、娘から、こんな昔の写真が出てきたって……驚いたり懐かしんだり……」
「え、何これ?」
「ボクがタイで出家した時の写真だよ……もう40年も前だ」
「おう、ツルツルじゃないの!」
「いや……その……事前と事後、そしてその最中の写真も発見されたんだ……」
この一連の写真は私ともいくらか『縁』があり、掲載させていただくことにしました。
おそらく30歳前後(だんだん記憶が整理されてきました)、まだ米国留学にでかける前のある朝、当時購読していた毎日新聞を開いたら、(たぶん)2面に大きく彼の顔写真が出ていたのです。
「おお! 飯田君じゃないか!」
高校3年のクラスメイトで、大学教養時代に付き合いがあったものの、専門学科に進学後は稀にキャンパスで見かけ挨拶する程度となり、互いにどこに就職したのかも知らず月日が経っていました。
その記事は当時連日掲載されていた『こころの時代』と題する特集の一部で、宗教や死生観、メンタルヘルスなどを取り上げていました。
記事を読むと、その若者はタイの現地法人に赴任した後、会社に許可を得て『出家』したとのことで、日本人ビジネスマンとしては異例、とありました。
「へえ、タイにいるのか!」
記事を妻に見せましたが、彼女は10年も前に1度会っただけで、ほとんど憶えていませんでした。
私にとっては、同級生が海外で働いている、というニュースはとても刺激になりました。
留学プログラムに手を挙げたことにも、いくらか関係しているかもしれません。
「あ、そうなの? 記事読んでくれたの? 日経と読売からは取材があったの憶えてるけど、もう1社どこだったかな、と思ってたんだ」
「しかしさ、なんで出家しようと思ったの?」
「うーん……結局、人と違うことをやりたかったんだろうね」
彼は『故郷の遠い星』を想うような眼で言いました。
『人と違うことをやりたい』
かつては俺にもあったなあ……私もかつて住んでいた『星』を想い浮かべていました。
「で、これが得度が終わった後の写真」
「えーと、ツルツル君が中央にいて、両側に偉い人たちがいるのはわかる。でも、この2列になった女性たちは何? お供えのようなものを持ってるけど……」
「うーん……と、その女性はね、まあ……ボクのファンクラブのような人たちかな」
「え、なに言ってんの?」
うーむ。煩悩だらけではないですか!
……いや、煩悩まみれだから出家したのかもしれないが……。
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