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つ 「爪切り」


爪切りがあまり好きでない。いや、爪切りが好きだって人なんてこの世の中にいるのだろうか。『佐々木、イン、マイマイン』という僕の好きな映画のなかで主人公の彼女が「足の爪を切る時間って人生で一番無駄な時間だと思わない?」みたいなことを彼氏に言うのだけど、僕は激しく同意する。洗濯物にアイロンをかける時間を愛おしむ村上春樹みたいな人なら爪切りすらも楽しみに変えるてしまうのだろうか。

手の指の爪はそれでも1週間に1回は切っている。というか切らないとPCのタイピングにちょっと違和感が出る。僕は相当な文字数を毎日タイピングしているので、ノートPCの入力キーのプラスチックと爪があたる微細な「カチカチ」がタイピングの精度をちょっと下げたりするのが嫌なのだ。足の指の爪は2週間か1か月に一回ぐらいだろうか。あまりに切らないと靴下に穴が空くペースが早くなるし、夏場なんかは裸足にキーンのサンダルを履くことが多いのであまり見苦しくないように。

でも人生って「爪切りみたいなこと」の連続なんだよな、結局、とも思う。伸びる爪を切り、伸びる髪を切り、減った腹をご飯で満たし、消化してはトイレで用を足し、トイレが汚れるのでそのトイレも掃除する。人生ってそれの繰り返しであるとすれば、「人生とはつまるところ爪切りなのだ」と言うこともできそうだ。生きるのを辞めた人とはつまり爪を切るのを辞めた人のことなのかもしれない。爪切りのような「人生の税金」みたいなものを家賃として払いながら、僕はこの地球にへばりつく権利を得ている。そして年を取ると年々、家賃は高くなる。健康診断の回数、ときにはその後の再検査。不摂生が体に及ぼすマイナスの度合いとそのリカバー。白髪染め……。メンテナンスの項目は年齢と共に増していく。それもまた人生。それをすら愛おしめたら、生きることは愛おしいのだろうな。


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