世界は複数ある
よく知られているように、エンデの『物語』のメッセージはこうです
――わたしたちは、子どもらしい空想の世界を守り、
慈しまなければならない。
大人になっても、夢見ることをやめてはならない。
さもなければ、わたしたちは虚無の手に落ちてしまうのだ。
完全に何の意味もない冷たい現実だ。
そこでは、もはや何も意味をなさないのだ……。
―――『なぜ世界は存在しないのか』マルクス・ガブリエル 35頁
▼▼▼PERFECT DAYS▼▼▼
ヴィム・ヴェンダース監督、
役所広司主演の映画『PERFECT DAYS』を観た。
3月1日の吉祥寺の映画館は混んでいた。
僕は上映が終わる前にどうしても観たくて、
その日しか時間作れる日がなかったから、
たまたまその日に映画館に行ったのだけど、
平日の映画館は人でいっぱいだった。
『PERFECT DAYS』が話題なのもあるけれど、
毎月1日がたまたま、
その映画館のサービスデーで、
1,200円で観られる日だったのだ。
小さな幸運に喜びつつ、
わくわくしながら映画を観た。
2時間の上映が終わり、
夕方の吉祥寺の街に出た時、
景色は違って見えた。
これは観た人には分かるだろうけど、
特に公衆トイレが違って見えた。
あぁ、このトイレを、
日々掃除してくれている人がいるんだな、と。
当たり前だけれどそんなことを思った。
その日からわりと、
ふとした瞬間に主人公の平山(役所広司)のことを、
考えている自分がいる。
平山は今朝も東京の空を見上げて笑っているだろうか。
平山は今日も自作した道具でトイレを磨いているだろうか。
平山は今日も100円で缶コーヒーを買っているだろうか。
平山は今日も二階の木の苗に霧吹きで水をやっているだろうか。
さっきすれ違ったのは平山じゃなかろうか。
平山から、俺はどう見えているのか。
……いや、俺こそが平山なのではないのか。
PERFECT DAYSを観た後に、
世界は「平山がいる世界」になる。
『1Q84』の天吾が高速道路の階段を降りたとき、
「月がふたつある世界」になっていたように。
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