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せ 「セミ」


小学生の頃、夏休みになるとセミ取りをしていた。虫取り網と虫かごを持って出かける。桜の木にはびっしり蝉がくっついている。アブラゼミ、クマゼミ、ミンミンゼミ、ツクツクホーシ。セミ取りをしすぎて、「ん? 20メートルぐらい先にクマゼミがいる」と音を聞き分けられるようになった。雄か雌かも鑑別できた。裏返したときの「胸」についてる「板」みたいなやつの形が違うのだ。アホみたいにセミを捕って、アホみたいに1日、2日飼って、そして逃がしていた。家がうるさくなるので母親は嫌だったと思うけれど、僕と弟が「自然」に興味があることは良いことだと思ってたと思われ、禁止されることはなかった。お母さん、おかげで僕は獣医師になりました。

大人になった今、僕はセミがあまり好きでない。「夏の暑さに殺される」という季節性の鬱と闘うようになり、夏と結びつくあらゆるものが恐怖の対象になった。トラウマだ。だからセミの声がうるさいと「死ね死ね死ね死ね」って鳴いているように聞こえ、窓を閉めてエアコン全開にして耳を塞ぎたい気持ちになる。少年の頃の僕よ、大人になった君はセミが嫌いになっているぞ。

あと、そもそも「セミ取り」って、地球温暖化によって不可能になったよね。8月の日中に虫取り網もって走り回れた時代って、幻だったんだろうか。あれは本当に日本だったのだろうか。それほど、日本の夏はもはや僕たちが知る日本の夏じゃなくなってる。蚊取り線香とか以前に、風鈴以前に、軒先でスイカ以前に、盆踊り以前に、「危険だから外に出ないで下さい」になっちゃったんだから。昭和の夕涼みの夏休みから考えたら、もう別の国だよね。ディストピアだ。セミはだから本当は「暑い暑い暑い」って鳴いているのかもしれない。「俺たちもさすがにこれは暑いぜ、頼むぜ人類よ」と。「地中で何年も待ってたけど、ここまで暑いって聞いてなかったんですけど!!」

ごめんセミたちよ。俺たちのせいだ。SDGs、大事だ。


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