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新しい祈りを探す旅



「ツーリズム(観光)」の語源は、
宗教における聖地巡礼(ツアー)ですが、
そもそも巡礼者は目的地になにがあるのかすべて事前に知っている。
にもかかわらず、時間をかけて目的地を回るその道中で、
じっくりものを考え、思考を深めることが出来る。
観光=巡礼はその時間を確保するためにある。
旅先で新しい情報に出会う必要はありません。
出会うべきなのは新しい欲望なのです。
    ――――『検索ワードを探す旅』東浩紀 84頁


▼▼▼東京を離れて思うこと▼▼▼


東京を離れて3週間が経った。
北海道にいると東京にいるときとは違うことを考える。

「思考の轍(わだち)」の話を最近メルマガに書いた。

僕たちの脳は「認知的ケチ」で「怠け者」なので、
ルーティーンを好み、変化を嫌う。
実は人間が本質的に「保守化」しやすく、
認知的可塑性が低下する高齢者ほどその傾向が高いのは、
この「慣性を好む脳の性質」に起因している。

認知的可塑性(思考のやわらかさ)が低くなると、
その脳は「変化をとにかく嫌う」ようになる。
昔からのやり方を変えられなくなり、
社会や人々がアップデートすることも嫌うようになり、
時代の変化に合わせて自分を変化させることも難しくなる。
かくして人は老人になると「保守化」しやすくなるのだ。

年を取ると固くなる、という意味で、
関節と脳は似ている。

さて。

僕も今年47歳になるわけなので、
きっと気付かずに思考は固くなり、
「認知的ケチ」の度合いは高まっているのだろう。

いつもと同じが一番心地よいし、
リズムが崩れるのが嫌だ。
自閉症スペクトラム傾向があるので、
僕の場合その度合いは普通の人以上だ。

映画『PERFECT DAYS』の平山を見て、
「うらやましい!」と少しでも感じる人は、
あるいは「これが自分の理想だ」と少しでも思う人は、
おそらく自閉症スペクトラム傾向があると思われる。
僕はちなみに、とてもそう思った。
「こんな人生嫌だ」ではなく、
「こんな人生が良いな」と思った。

思ってしまった。

決まった時間に決まった行動をして、
決まった仕事をして決まった銭湯に行き、
決まったものを食べて決まった人と会う。
カラクリ仕掛けの人形のように毎日を正確に繰り返す。
今日は、昨日と同じ一日であり、
明日は今日と同じ一日であり、
今週の日曜日は先週の日曜日と同じ一日。

なんて安心するんだ。

僕は放っておくと「平山になっちゃう」人間だと自分で思う。
東京にいるときの平常運転の僕の日常、
つまり筋トレや読書やルーティーンとしての執筆や動画配信って、
けっこう「PERFECT DAYSな日々」なのだ。

「やばいやばいやばい平山化が進行している!」と、
「PERFECT DAYS」を見てからは自戒するようになった。

あまりにも心地よいものは魅惑的すぎて、
「やばい」のだ。

何がヤバいのか言葉にするのは難しい。

でも敢えて言うと、
「めちゃくちゃ考えているようでめちゃくちゃサボっている」
っていう状態になるのだ。

めちゃくちゃ頑張っていて、
めちゃくちゃサボっている。

本質的なことをサボるために、
努力や思考やルーティーンに逃げ込む。

こういうのって、あると思いませんか?

僕にはけっこうあります。
僕の中の平山は僕を救ってくれる存在でありながら、
その平山に呑み込まれてはいけない、
という怖い存在でもある。

北海道に来て、平山がいなくなっている。
旅先では普段と違うことを考え、
毎日違うリズムで生きる必要が生じるから。


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