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い 『椅子』

椅子が好きだ。いや、椅子について考えるのが好きだ。椅子のメーカーに詳しいとかそういうことではない。だけれど、BRUTUS みたいな雑誌で椅子特集をやってたりすると、けっこう見る。イームズの椅子って哲学的な形をしているな、とか、20万円するハーマンミラーのアーロンチェアってどんな座り心地なんだろうな、とか。たしかアメリカ人がよく言うことに、「地面と自分の間にあるものには金をかけろ」っていうのがある。靴がそうだし、床がそうだし、椅子がそうだし、ベッドがそうだし、自動車(特にタイヤ)がそうだ。なんか説得力がある。

僕が所有している椅子は高級品ではないが、椅子には手を抜いていない。中古のデスクチェアと読書用のロッキンチェア(およびオットマン)を所有しているが、両方とも思い入れがある。両方とも国産品。デスクチェアはKOKUYO、ロッキンチェアは天童木工という秋田のものだ。ロッキンチェアは8年前、デスクチェアは3年前に買った。安い買い物ではなかったが、とても良い投資だったと思っている。僕は座り仕事が多いのでデスクチェアが適当なやつだと、疲労の仕方がやはり変わってくる。読書は死ぬほどするので、3時間座っていてもどこも痛くならない天童木工のロッキンチェアはなくてはならないものになっている。壊れたらまったく同じものをおそらく買うだろうと思っている(でも、相当に頑丈につくられているから僕が死ぬまで壊れないかもしれない)。

いろんな教会に行くことがあるが、わりと椅子には注目する。いわゆる「教会の長椅子」にお目にかかることは少なくなったが、あれはあれで悪いものじゃない。ただ、あれってトイレ行くときとか大変なんだよね。シンプルなパイプ椅子の教会は「実用的な考え方の教会なんだな」とか、教会全体のお金のかけ方に比べると座り心地が良さそうな椅子にお金をかけている教会は「そうだよね、ここだよね、分かってるね」って思う。シンプルに、「ははーん、どこかの結婚式場が潰れたときに払い下げ品をごっそり買ったな」みたいな教会もある。それはそれで合理的でよろしい。椅子にはその椅子の数だけ物語があるのだ。僕が一番好きな、「映画に出てくる椅子」は、『グラン・トリノ』で、クリントイーストウッドがバドライト(Badwizer Light)を飲みながら世の中に愚痴をまき散らしているときに座る、フロントデッキに置かれた木製のロッキンチェアだ(記憶は改ざんされているかもしれない)。ちなみに座り心地はあまり良さそうではなかった。


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陣内俊
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