長い夜を歩くということ 139
「それは…光栄なことですね。麗華さんにとって初めての男になったということですから」
「先生はそんなことまで言えてしまう人だったんですね。結婚生活は…なんだか苦労しそうですね。振られて正解だったかもしれません」
小鳥が笑うように囀った。彼女の体は少しでも動く度、無数の罅が入っていくようで、私の口は考えるよりも早く動く。
「でも、今まで言い寄ってくる人はたくさんいたでしょう。その中でも芸能界なら素敵な人もいたでしょうし。どうして結婚しなかったのですか?」
おしゃべりな私のことを、彼女が少しだけ不思議そうに目を細めて見ていた。
でも、すぐに笑顔を取り戻し、私を見透かしたように意地悪く目尻を下げた。
「それはもちろんいましたよ。映画で共演すれば長い間一緒にいるわけですし、仮とはいえ、恋人同士や夫婦になるわけですから。仲良くなって付き合うことは業界の中ではよくあることですよ。それに自慢じゃないけれど番宣で出たバラエティでも連絡先聞かれるくらいでしたからね。私」