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長い夜を歩くということ 154
「先生に、演技について色々と教えてあげるわ。私、演技に関してはスパルタだから、覚悟してね。そうしたら、先生を私の映画に出してあげる。それなら、先生の呪いにはならないで、思い出になるでしょ?」
「はい。それなら、きっと平等です」
彼女の瞳は、病室の光に焼かれながら照り返す美しい三日月だった。
それはゆらゆらと不安定で、私の足には力がこもった。
目に映るそれが上弦の月であることを私は強く信じ込んだ。
彼女の瞳は安らかな笑顔と共に完全に閉ざされた。
その表情は初めて会った時の向日葵のような笑顔で、今の私には同じように丸い満月に見えた。
しかし、視界が広がると、彼女の包まれるベッドはより深く沈んだように感じてしまう。
それは月が消えた新月の夜空を眺めるようだった。
私は一瞬見た景色を掴むように、私の景色を彼女に押し付けるように、胸の中に深く沈んだ空気を大きく押し上げて
「はい」
となんとか彼女を包むように答えた。