長い夜を歩くということ 135
夕方になってから院長に呼び出されたので院長室に入ると、穏やかな笑みで私を迎えてくれた。
私は院長が仕事しているデスクまで歩いた。
「午前中に話してくれたことについてなのだが、少しの間、タクシーで通勤してくれないだろうか?もちろん費用については病院側で負担する」
私は院長と机を挟んで立ったまま、話を聞いていた。
私は「わかりました」と何も考えずに了承する。
院長はさらに話を続けた。
「それにもう一つ。申し訳ないのだが、少しの間、別の部屋に住んでくれないだろうか?」
院長は私の目をしっかりと見据えていた。その眼光は強く上空から獲物を見定めた鷲のようだった。
「はい…それも構いません。ですが、お言葉ですが、そこまですると逆に怪しまれないでしょうか?」
「もうずっと記者どもがこの病院に張り付いていることはわかっている。今更、私たちがどんな行動をしようが奴らが動くのは目に見えてるよ。それよりも、君が毎日記者に後をつけられる恐怖感と不要なストレスを持って、樺澤さんを担当し続けることの方がリスクだ」