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機械仕掛けのコウノトリ 35
第1話
前話
その日のことは初めて見たホラー映画のようにずっと頭に残っていて、ふとした時に隙間を埋めるように蘇る。
突然開いた玄関の先に何人もの警察がいて、ぶっきら棒に「失礼します」とだけ答えて部屋に入ってくる。私は訳がわからず、ただとてつもない事が起きている事に焦った。
リビングでコーヒー飲んでいた夫が突然両脇を抱えられて連れ出されていく。
コーヒーカップが床に落ちて悲鳴が鳴る。
それはきっと何もできないでいる私の態度をこの部屋が代わりに表現してくれたのだと私は思った。
夫がパトカーに乗せられていく姿を今だに何もわからずに無表情で見ていた。
警察官の一人が帰り際に「後日、奥様にも詳細をお話しさせていただきます」と言い、深々とお辞儀をした。
それでも私は考えるということを失ったかのように呆然としていた。
遠ざかっていくサイレンの音を確認してからようやく足が動く。
鋭利な破片を散らばせたコーヒーカップの残骸に黒い塊がこれからの不吉を予感させるガン細胞のように大小さまざまに広がっていた。