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長い夜を歩くということ 3

 少しばかり坂道を下り、海岸が見渡せる場所までは行くつもりでいた。

しかし、結局砂浜まで来てしまった。ここが旅館とは逆方向なことに気付いたのは、足元に打ち寄せる波をじっと見つめていた時だった。

海は水晶玉のような柔らかい光で揺らぎ、空っぽな私を無言で受け止めてくれた。駅で見た印象とは大違いだ。

 私の中で張り詰めていた緊張の糸は、休暇を言い渡された日からプツリと切れていた。

心までも垂れ下がり、糸の切れたマリオネットのように、熱海に来た今でさえ、私は何をしたら良いのかわからなかった。

 地元の学生なのか、それとも私のような季節外れの観光客か。他に誰かがいたのかもしれないが、私の視界にそれらが入ることはなかった。

私が唯一感じられたものは、変わらない態度で足元の砂を攫っていく波の慰めだけだった。

 左手を上げて腕時計を見ると、チェックインの予定まで二十分となっていた。正気に戻った私は急いで海から上がり、海岸沿いの道路を目指した。

砂利の混じるコンクリートの階段は風化して削れ、海と戯れた後に登るには少しばかり足場が不安定で段差が大きかった。

今更ここまで歩いた疲れで重くなった足を、私は右、左、と四股を踏むようになんとか持ち上げた。そして、ここまで来たことを少しだけ後悔した。

なぜここまで来てしまったのかと考えた。

しかし、答えは当然分かるわけがなかった。旅館を予約した時から、私は訳の分からない行動しか取っていないのだ。

今更この直近の出来事に理由など見出すことはできないだろう。

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