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長い夜を歩くということ 11

 初めて彼女を見た時、やはり綺麗な人だと思った。

目の前にいる人が女性であるという男性として本能すら吹き飛ばし、この病室のあらゆるものを芸術として染め直してしまうような華があった。

ベッドの上で窓の外を眺め続ける彼女を、私は視線を外すこともできず呆然と立ち尽くしていた。

「樺沢さん。こちらがあなたの担当になる塩尻です。本日はご挨拶に参りました」

院長の木の葉を揺らすよう深い声が隣から聞こえて、私の意識は尻を叩かれたようにようやく現実に引き戻された。

外に向けられていた彼女の顔は猫のようにくるりと回り、穏やかな表情を変えないまま私のことを見つめていた。

力強い瞳は宝石を埋め込んだような純粋さが光り、彼女の人柄を話すまでもなく私に教えてくれるようであった。

「はじめまして。これからお世話になります塩尻です。どうぞ宜しくお願いいたします」

私は深く頭を下げてから彼女の顔を見た。すると彼女は口元に手を当てて、目尻に小さな皺を作って笑っていた。

その笑みは控えめに言って、無色の病室をひまわり畑に変えてしまうくらいには可憐だった。

「お世話になるだなんて先生。それは私の台詞ですよ?こちらこそ樺澤麗華です。塩尻先生、これから宜しくお願いいたします」

彼女も座ったまま私にお辞儀をした。彼女の表情は屈託なく、なぜだか少年のように自由に見えた。

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