長い夜を歩くということ 14
「ご一緒してもよろしいですか?」
今度は気のせいではなかった。
声がした方向に顔を向けると、老人がテーブルの端に立って私に笑顔を向けていた。
優しげな表情に刻まれた深い口角の皺が印象的だった。
私は
「はい、もちろんです」
と笑顔で応え、対面の席に手を差し出した。
老人が私の前に座り、仲居がやってくると、私がそうしたように引換券を渡した。
そして、私がしなかった簡単な会話を交わして、私が気づいた彼女の応対の素晴らしさを褒めた。
彼女の顔は照れて綻んだ。
それは蛙が水たまりに飛び込み生まれた小さい波紋のように愛らしい笑顔だった。
彼女の隠されていた少女の一面に触れた気がして、私の表情も自然と緩んでいた。