左手に金の滝が打つ 11
第1話
前話
玄関の外に出ると『家族』という深海から押し上げられて、水面に顔を出したような解放と自由の喜びがあった。
素性も経歴も何も知らない母親ほどの年齢の女性が、手を差し出して繋ぐことを促す。見上げるとその顔は私よりも子供のような、待ちきれないという目をしていて、しかし、個人的な感情は壁でもあるかのように、透明なものに遮断されて無菌だった。
合わせた指先の第一関節は冷たく、皮膚の接地面の感触がはっきりと伝わる。
私と彼女は別の生き物だ。
その事実だけで私にはもう充分なほどだった。はぐれものが一緒くたにされるのではなく、家族という収容所を離れ、人の交わりのない楽園にただ進むだけなのだ。
私に残されたのは金で与えられた才能と金のために与えられた才能と金で買えた知識だけだった。
それだけが私の希望なのだから、幸せ以外に何も感じることなどできるはずがないのだ。