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長い夜を歩くということ 102

 抜け殻となった彼に残ったものは社長という肩書きだけだった。浮かびあがろうとする感情を彼は振り払うために狂って仕事をした。

彼女を忘れることなど片時もなかったが、その影を追うこともなかった。彼女に背中を押され、時に背中を叩かれながら勝ち取った居場所を、彼はさらなる高みへと推し上げていった。

そのことだけが月にいるはずの彼女に見せられることであり、彼女に近づく方法だった。

 彼はただの人ではなくなった。

しかし、社長として進む道はまた新しい炎を彼の中に渡し続け、それは聖火を受け取るランナーと同じで止まることは許されなかった。

彼は脳が寝ていたと勘違いするほどに溢れ出すアイデアを仕事に変え、作り出し続けた。

巨大な壁が目の前に現れ、彼がたじろいだ時、彼女は彼の背中を強く叩いて無理矢理に一歩歩ませた。

そして彼が振り返る時、消えたのだろう。

そう思えるほどに彼の人生には背中から顔を出す無邪気な白い歯が見えている気がした。

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