長い夜を歩くということ 74
彼らは海を後にして道路に上がった。
駅からも離れたこの場所だからどうしようかと今更になって考えたが、手を上げたら簡単にタクシーは捕まった。
彼女を先にタクシーの中に案内しようとすると手探りで座席を色々と触り、手こずっていた。
「慣れないモノだとちょっとみっともないのよね」
と明るく強がって振る舞う彼女の姿はむしろ等身大のように思えて彼は安心した。
タクシーが走り出した時、ちょうど陽が落ち始めて海の色が変わる。
赤く染まった海面は、沈む太陽を持ち上げようと必死に揺らめいていた。
彼が景色に見惚れていると「ねえ真二」と彼女に声をかけられた。
彼が隣を見ると彼女も瞼を閉じたまま夕焼けを見つめている。
「なんだい?」
彼は彼女を見て答えた。すると彼女は
「これが赤なの?」
そう呟いた。
バケツいっぱいに盛ったお菓子が一つ落ちるような声だった。
彼が「ああ、そうだよ」と答えると、彼女は「ふーん」と唇を尖らせる。
そして、
「やっぱり、赤ってさ一見暖かくはみえるけど、なんか悲しくて寂しい色だよ」
彼女は少し悔しげに呟いた。
そして、彼を見て隠すように笑った。
彼は「ああ、そうだね」と答えた。