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長い夜を歩くということ 157
「これは樺澤さんから君へのものだそうだ」
綺麗なノートの表紙には何も書かれてはおらず、ところどころ黒ずんだ跡やよれた形跡があり、このノートが誰かに熱心に使われていたことを示していた。
「業務上、すまないが中身は一度見せてもらった。しかし、これでもう、このノートは完全に君の受け取るものだ」
院長はそのノートを私の前に差し出した。
私が手に取るのを待っている。
私は「ありがとうございます」とお辞儀をしてから、しっかりと握り受け取った。
そして、膝の上に置いて、両手を重しのように乗せた。
「今日は病室に誰も入らないことになっている。君の自由に使ってくれ」
院長はそう言うと私の肩にポンと優しく手を置いた。
小鳥が乗ったように柔らかく軽い感触だった。
院長が先に部屋を出ていくと、一度大きく深呼吸をした。
それからソファに沈んだ体をなんとか持ち上げた。
熱の籠った足は硬直していたが、ノートが足の上から離れるとゆっくりと解けた。ノートを抱えた左手は新しい熱を感じていた。