長い夜を歩くということ 112
彼女が入院すると多くの人が見舞いに来た。
私は患者のプライベートに介入することを避けたかったし、実際、今まではデリケートな患者も多かった。
そのため、私の対応は無難で当たり障りないことを心がけた。
しかし、あまりにも見舞客が多い場合、それは患者にとっても負担でしかない。
そういった時、医者である私がどこかで制御しなくてはならないこともある。他に仕事もないのだから、脳の隙間を埋めるようにその意識は強くなる。
私が病室に入ると椅子に座った女性がこちらに振り向いた。
ベッドの背に身を預け布団をかけた彼女は「これから診察だから」と言って椅子に座る女性を立たせた。
「また今度ね麻衣ちゃん」
と彼女は伝えると、
女性も彼女に手を振ってから病室を出ていく。
女性が私の横を通る時立ち止まり、祈るように私にお辞儀をした。
私は小さく会釈をして返すと、女性はそのまま颯爽と去っていった。
私は病室の中に入り、女性の座っていた椅子の位置をベッドから少し遠ざけて座った。
「先生、私、少し疲れてしまいました。体調が悪化するとよくないからもうちょっと時間あけてからまた来てくれませんか?」
彼女は背伸びして、さらに加えて欠伸をして呆然と壁を見つめている。