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長い夜を歩くということ 145
「どうしてですか?」
「ドラマでもよくあるでしょ?気になるところで翌週に持ち越したりするの」
「麗華さんにとって甲子園は、最終回がわからないのにいきなり新ドラマが始まりだすようなものなんですね」
「そうね。だから、こうやって最初から最後まで観れるのは新鮮ね」
「幻滅はしませんでしたか?」
「まさか。でも、新しい発見もあったわ」
「なんですか?」
「球児って夏でも長ズボンのユニフォームじゃない?長袖の子もいるくらいですし。暑くないのかとずっと疑問だったのよね。でも、もしかすると案外暑くないのかもと思ってね」
「どうしてですか?」
「だって、頭がすっきりするとそれだけで涼しいってわかったもの」
彼女は自分の丸い頭をさすりながらおどけて笑っていた。
細く閉じられた瞳の中にだけ彼女が入っている気がして、私は必死に探し出そうとした。
「それは…確かに麗華さんにしか気付けないものかもしれませんね」
「そうでしょ?」
彼女は今更になって恥ずかしそうに視線を逸らした。
瞳の黒のさらに奥に彼女は飲み込まれてしまいそうに思えて、私はどうにかして掴もうと言葉を投げていた。