J3 第18節 レビュー【鹿児島ユナイテッドFC vs いわてグルージャ盛岡】ダビングゲーム
2021.9.11 J3 第18節
鹿児島ユナイテッドFC vs いわてグルージャ盛岡
こんにちは。
今回もご覧いただきありがとうございます。
鹿児島にも感染者が増えてきましたね。
皆さんお気を付けて。
今回のお相手はいわて。
今節も便宜上、「岩手」でお送りします。
前回対戦時にはアウェイで1-2の敗戦。
特に中原にとっては悔しい一戦でした。
リベンジマッチの側面もある一方、「何を怖がっているんだ!プロとしてしっかり闘え!全員で行くぞ!」の秋田監督、「赤い炎のようなプレス!海のような冷静な守備!金色の攻撃!」でお馴染み上野監督が相見える一戦。
こんなに胸が熱くなる試合があるでしょうか。
メッシとネイマールがチームメイトになった時のような、中田英と小野が代表にいた時のような、コロッケの後ろから美川憲一がご本人登場した時のような高揚感を覚えます。
そんな一戦でしたが、前回対戦で命名した「強い気持ち」サッカーは継続、少し手も加えていたと思います。
それに対する鹿児島の振る舞いも掻い摘みながら、試合を振り返りながら見て行こうと思います。
ご笑覧ください。
0.スターティングメンバ―
まずは鹿児島のスタメン。
前節からは薗田→グスタヴォの起用となりました。
やはり、上野監督のFW選定基準は動きすぎないことが1つ条件になっていそうです。
今節はそのグスタヴォも、4番牟田などと対峙しても引けを取らないプレーも見せてくれたので、もっともっとフィットしてくれたらなぁと思います。
一方で、萱沼はベンチから外れました。
アクシデントがあったのかもしれませんが、FWの選定基準が代わり、そのタイプも2枚確保出来ており、秋山の加入でトップ下の層も厚くなったとなると、ユーティリティ性を持つ萱沼は優先度が低くなっているかもしれません。
とはいえ、監督としては使い勝手が良い選手なはずなので、どこかで戻ってきそうではありますが。頑張れ萱沼。頑張れ皆んな。
また、島津がベンチ外になり、僕たちの八反田先生が帰ってきました。お帰りなさい。
今節は60分の投入。
後述しますが、後半から投入された秋山が頻繁に落ちることもあり、前線でのプレーが増えていましたね。
守備タスクの軽減を図って、トップ下起用でも良いんじゃないかと思い始めていますが、僕はやっぱりDHでビルドアップに絡む先生のプレーを見たいのかもしれません。まだまだ見せてください、八反田先生。
それと、変更では無いですが、大西のスキップパス技術は今節特に光っていたと思います。SBやSHに一気に送るパスは、岩手のプレス回避に一役買っていました。
この辺は白坂も技術は高いと思いますが、セービングの部分で大西が勝るのか、キックのスピード感などで大西が勝るのか。とにかくGK事情は嬉しい悲鳴が上がっていそうです。
続いて、岩手。
前節からの変更はCBが3番藤井→サスペンション明けの4番牟田に。
3試合出場停止中のブレンネルと牟田が両方いないという確変モードには遭遇出来ませんでしたが、誰でもコンセプトを実現出来そうな岩手にはあまり関係なさそうです。
また、13番色摩・17番中村・22番佐々木で構成される左のチェーンは、内外前後の関係性を入れ替わり立ち替わりして厄介でした。
特に22番佐々木の保持時の能力は面倒でした。HVにこういう選手がいると味方としては楽ですね。J3では熊本の黒木か、佐々木か、くらいの印象を受けました。
そんなメンバーの岩手。
次項では、岩手の守備体制から見ていきます。
1.岩手の守備とポジトラ
プレッシングから触れていきます。
前回対戦時は、積極的な前プレを敢行していましたがゴールキックでは同様に嵌めてきました。何度か奪われかける場面もありましたね。
それを警戒して、開始数分のゴールキックから、CBに繋ごうとした場面でも、大西のロングフィードでリスタートに切り替えることが多かったと思います。
また、大西の至近距離に田辺が落ちて、リスタートするパターンもありました。浦和のリカルド監督も、徳島時代からこのパターンを仕込んでいますが、フィールドプレーヤーが持つことで、パスor運ぶの選択肢を得られるメリットがあります。
この場面では、田辺に2CBを加えて岩手の1トップ2シャドーと数的同数を作ることで、岩手プレッシング陣は撤退を余儀なくされていました。
また、ゴールキック以外のビルドアップに対しては、WBが早い段階で撤退し、5-2-3でミドルプレスに移行しています。この時、前3枚で、CB2枚・ボールサイドのSBへのプレスを基本としていました。
ミドルプレスに移行することで、鹿児島SBが岩手シャドーの高さを超えた位置でボールを受けても、シャドーのプレスバックが間に合ったり、DHやWBの迎撃が容易になるメリットを享受しています。
これは、前節の長野も苦慮しており、鹿児島も難しい部分になりそうだと思っていたのが、実現してしまった部分です。
また、SBへのプレスバックがあるシャドーや、鹿児島DHと噛み合わさる岩手DHは、無理に追うことはせず、自分のポジションを守ったり、パスコースを消すことが多くなっていました。が、殊DHの28番増田はある程度深追いを許容していたと思います。
ただ、CB間に落ちる田辺には付いて行くことは少なかったので、あくまでポジションを守ることを優先していたはずです。強い気持ちだけじゃなくなった部分ですね。
また、岩手最大の強みはポジティブトランジションの鋭さ。1失点目もトランジションを刺されました。
失点シーン、右サイドでロストしましたが、前線4枚と前進していた中原・オーバーラップしていたフォゲッチは、即時奪回に関与出来ず、帰陣も遅れます。
この結果、サイドで蓋をすることが出来ず、逆サイドのWB25番有永に展開されてしまいました。
また、25番有永とシャドー・1トップでボールサイド側から4レーンを滑走しています。これにより、砂森やイヨハは特に選択肢を与えられ、対応が遅れていました。
最後はヨンテがサイドに流れ、イヨハが付いていったことで空いた中央を28番増田に侵入されゴールを許しました。
この岩手のトランジションの意識・走るべきゾーンの徹底はJ3随一の質があります。
その分ボール保持はそれほどですが、長野戦に引き続き、ブレンネルもいない中トランジションで刺しきれる岩手を褒めて良い失点でした。
とはいえ、やはり予防的ポジションが怪しいところから失点を喫した鹿児島。2失点目も秋山や中原がサイドに寄りすぎた結果、中央で岩手DHやアシストした45番和田が空いたところからでした。無論、ウェズレイの挙動を見た和田のスルーパスもお見事でしたが。
今後、この辺りの攻守のバランスの折り合いは付けていく必要がありそうです。
2.序盤のビルドアップ
対して序盤は、ビルドは悪くない前進が出来ていました。
下図は14:20〜のシーン。
大西のロングフィードからスクランブルに。
ボールを収め、米澤まで渡ったところです。
…少し話が逸れますが、右シャドーの15番加々美は13番色摩に比べて、プレッシングでSBへの意識が少し高かったように思います。そりゃまぁ、プレスバックしんどいのでSBは消したいですよね。
その加々美の挙動、砂森を背中で消したり、プレスバックを強いられても強度が高いというところで、砂森自身も苦労したんじゃないかなと。
その結果、試合終盤に大外から追い越すべき場面でスプリントせず、米澤がブチギレるという砂森らしくない一幕もありました。
砂森としては、加々美の守備を掻い潜らなければならないだけでなく、失点シーン然りトランジションで晒される機会も多く、かなり負担が高かった故ではないかと妄想しています。
それも含めて、岩手のペースに持ち込まれてしまった試合だったなと感じました。
…話は戻って、米澤に渡った後。
人への意識が強い岩手は、DHもかなりサイドに寄ってきて蓋をしようとしています。
そこで、米澤→中原からDH脇で待ち構えたフォゲッチに展開します。
これにより、岩手DFラインを晒しつつ、五領にボールを預けた後はWB-HV間に走り込み、22番佐々木を引き出し。中央で3vs3となったところにクロスを放れた場面となりました。
SBとSHの内外の互換性は、終盤に衛藤が投入されても維持出来ていたので、トレーニングでも意識されているのではないかと思います。そして、それであれば、フォゲッチの序列が高くなるのも納得出来ます。
特にこの場面では、フォゲッチが位置的な優位を認知し、立つべきポジションを取り、チャンスを迎えることが出来ました。
ただ、画面に映っていないのでなんとも言えませんが、1失点目のようにフォゲッチが最前線に出たところでトランジションを刺される状況も発生しているので、誰が穴埋めをするのかは注視していきたいですね。
続く次項では、フォゲッチが大外で構えた為に、クリーンに前進出来た場面に触れていきます。
3.理想の崩し場面、18:00~
18:00頃〜のシーンです。
そもそも、岩手のFW・シャドー陣はウェズレイや田辺の楔を警戒しているので、双方陣形が揃っている状況でのビルドアップでは、SBは外側に張ってプレスを外回り出来るポジショニングを取るのが理に適っていたと思います。
ここでは、田辺がCB間に落ちて、岩手の1トップ2シャドーと数的同数の局面を作っています。
これにより岩手は、シャドーがSBにプレスバックが難しくなる為、イヨハから中原を経由して砂森にボールが入ります。SBを消したい15番加々美の挙動を逆手に取っていて、素晴らしい流れでした。
さらにこの時、中原は28番増田を引き連れており、砂森にはWBの25番有永が前進して対応、それに準じて右CBの36番小野田が大外の米澤へスライドします。
それで困ったのが8番脇本。
手薄になった最終ラインのカバーか、28番増田が空けたスペースで位置していた酒本を見るかで選択を迫られます。
結果、最終ラインに気を取られたところを見た砂森がすかさず酒本に展開。さらに酒本→大外のフォゲッチと繋ぎますが、手薄な最終ラインの手前、五領が17番中村をピン留めすることでフォゲッチにアプローチ出来ない状況が生まれました。
フォゲッチはドリブルを選択し、ロストしてしまいますが、一連のビルドアップ〜崩しは、過度に特定のゾーンへ人数が集まることなく、ポジションを守りながらもチャンスを作れたシーンでした。
こういったシーンを再現性を持って作り切れれば今節のような失点は防げてくると思いますが、なかなかそこまでは行かなかった今節。
相手を見て、どこに位置して攻めるべきなのかを洗練させて欲しいところです。
4.後半の展開
前半は1点ビハインドで折り返し。
後半頭から両チームに交代がありました。
まず、岩手は8番脇本→45番和田。この交代で1トップ和田、シャドーに9番韓、25番有本がDH、15番加々美が右WBとなりました。
ヨンテをシャドーで使ってでも和田を1番前に据えるのか!?と思いましたが、やはりシャドーではヨンテの守備面が厳しい。
自分のポジションを守れる加々美とは異なり、人に食いつきすぎる場面が多く見られました。6バック気味でも目の前の鹿児島の選手に付いていこうしていたヨンテさんでした。
流石に55分。重労働でもある両シャドーが交代しましたが、後半始まってからの10分間、左サイドで砂森が受けやすくなる時間帯となりました。
あれはなんだったんでしょうか?
少なくともピッチ上の現象だけを見ると、ちょっと謎な采配でした。
対する鹿児島は、酒本に代わって秋山が投入されます。が、68分には前述の通り、寄りすぎ癖が気になる秋山が空けたスペースを岩手に明け渡して、2失点目を喫します。
それ以降は、重心の低い5-4-1ブロックでひたすら跳ね返そうとする岩手。鹿児島としては事故か個人・グループの質に頼るしか無さそうな厳しい展開になりました。
秋山にとっても同様に厳しい展開だったはずですが、あまりにもブロック外でのプレーが続いたなという印象に終わりました。
酒本もそうなんですが、落ちること自体は悪ではありません。そこから何が出来るのか、ピッチ全体を見て適切な人員配置が出来ているのかが重要だと思います。
この前の代表の中国戦のように、5-4-1ブロックを崩し切るのが難しいのは分かりますが、もう少しアイデアが欲しかったと思う次第であります。
5.あとがき
所々に変化はあったものの、概して言うなれば、ポジトラから2失点・脈略の無いところから1得点と、前半戦のアウェイゲームのダビングか?という試合になってしまいました。
どのチームにも、順位に関係なく相性の悪い「天敵」はいるものですが、まさに岩手はそういう相手に見えます。
選手の質も問われる部分なので、すぐに打開も難しいですが、一歩ずつ前進出来ればなと思います。
これでまた、1試合未消化ではあるものの、昇格圏からは遠ざかりました。
現実的な立ち位置と理想とを勘案する必要はありますが、再度のリスタートとなった上野体制の行く末を見守っていきましょう。
今回はこの辺で。
次回、アウェイの鳥取戦でお会いしましょう。