ダビング
私は40話ほどが収録された、何かの総集編のビデオテープを持っていた。冬だとか、クリスマスの話だったと思う。『34』というヒントが与えられて、それをダビングすることになった。
物がうず高く積まれた小さなバックヤード。二つのビデオデッキをケーブルで繋ぎ、倍速で作業をすすめる。提出期日は2週間後だった。
誰かが現れて、片付けを始める。作業中のモニターの前に空のファイルの山が置かれた。私は嫌な気持ちになって、退かしてくれと文句を言った。
「そんなの知らないよ」
あからさまに不機嫌になって部屋を出ていく。子供じみた態度に唖然としながらも、作業を続行した。
途中何度も横槍が入りながらも、ダビングは完了した。不要な部分は後で削ればいい筈だ。やり方はよくわからないが。
ビデオテープを相方にとどけなければならなかった。鞄にテープを突っ込んで、建物の外に出た。
雨が降っていたから傘をさして、律儀に信号が変わるのを待つ。ふと電話をかけなければいけないことを思い出し、履歴からコールセンターに架電する。
「コールセンターはなくなりましたよ、山川さんに直接電話してください」
面倒くさそうな男性の声だった。私に山川さんという知り合いはいないが、電話帳から山川さんをみつけてかけ直した。
「予約ですね、2日はどうですか」
山川さんは女性だった。受話器越しに、ぱらぱらと紙をめくる音がした。
「2日はちょっと……」
「ちょっとということはないんじゃないですか」
「他にも通っているところがあるので、ダメなんですよ」
「そうですか……」
妙に怪訝な声だった。渡りそこねた信号が、チカチカと点滅する。車も人も、気配がない。ビニール傘越しに高架橋を見上げた。
夢は終わった。
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