マレーシアでもワクチンの効果が落ちてきているようだ

概要

■マレーシアの新型コロナワクチン接種後の死亡者について、2回めの接種の週と陽性が判明した週ごとに、接種数10万回あたりの死亡者数を調べて図にして比較した。
■マレーシアでも、高齢者、若年層ともワクチンの(死亡防止の)効果が落ちてきているのが見えてきているように思われる
■ワクチン同士で比較すると、死亡防止効果は
 アストラゼネカ>ファイザー>シノバック
という順番のようであり、前回の有効性の順番と一致した。
■マレーシアでも、1回め接種後、かえって感染しやすくなる(感染後死亡しやすくなる)傾向を示すようなデータが得られた。ただし、有効性の計算などで確認が必要。一方、2回め接種後については1回め接種後に比べて一旦有効性が落ちるといったことはなさそう。

はじめに

以前、「マレーシアでは新型コロナワクチンの効果切れはまだ見えていないようだ」と書いたのですが、細かく見ていくとどうも見えているようだということがわかりました。今回も保健省のGithubデータの新型コロナ死亡者情報を用います。データは少し新しくなって、2021/9/23までのものです。

下は、ワクチン接種後の死亡者について、2回めの接種の週(縦軸)と陽性が判明した週(横軸)について、10万接種回数あたりの死亡者を示したものを数値によって色付けして示したもの(ヒートマップ)です。ゼロが緑で、3が黄色、20が赤になるように色を指定しています。

死亡した週でなく、感染が判明した週を横軸に取っていることに注意してください。こうしたのは、ある時点(感染した週)での有効性を反映させたいと考えているからです。

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この図から次のことが読み取れると思われます。

1.高齢者のワクチンの効き目が落ちてきている

マレーシアでは、国家新型コロナワクチン接種計画の第2相(フェーズ2)として、4/19に高齢者や基礎疾患のある人への接種が始まりました。2回めの接種は3週間後なので、5/10に高齢者の2回めの接種が始まったわけです(下の図の赤線)が、8/15の週以降にワクチン2回接種者(完全接種者)の感染による死亡者が増えています。

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一方、7月以降に接種した場合について見ると、まだ落ちたかどうかははっきりしていないと思われます。

前回、ウイルスが蔓延して症例者、死亡者が増えると、有効性が落ちるようだと結論して、今でもそれは正しいと思いますが、それ以外にやはり、時間が経って有効性が落ちてきているのも今回見えてきたと思います。

上の図で白の点線は、2回目接種の週と感染判明の週が一致するところに引いてありますが、その線から感染後死亡者数の多い週との差を取ると、12週程度、つまり、3ヶ月程度で落ちてきている可能性があります。

死亡にまで至らない感染の有効性も本当は知りたいところですが、それは、マレーシア保健省のGithubのデータにワクチンと感染に関するデータがないのでわかりません。

しかし、論文などの結果を見ると、まず感染の有効性が落ちて、それから重症化に対する有効性が落ちているようなので、感染防止の有効性は死亡防止の有効性が落ちる前から落ちていた可能性が高いと思われます。

有効性の低下はマレーシア保健省も認識していると思われ、10月からサラワク州を皮切りに高齢者と基礎疾患を持つ人に追加接種を行う予定です(こちら)。

2.医療従事者などの効き目も落ちてきている可能性

高齢者ほどでないですが、医療従事者などフロントランナーに対する有効性も少しですが、落ちてきているように思います。

マレーシアのワクチン接種は2/24に医療従事者などに対するフロントライナー(前線で働く人)に対して(フェーズ1として)開始されましたので、3/17から2回目接種が始まっていることになります(下の図の下向き赤矢印)。その人達は高齢者でなく、おおむね現役世代です。

その人達についても、8月になると割合は少ないですが、単発ではない死亡につながる感染が発生してきています(下の白丸)。

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ヒートマップではほぼ緑色なので、たぶんワクチンの死亡に対する有効性の低下は小さいと思われますが、ともかく、現役世代の人たちの感染に対する有効性もある程度低下してきているように思われます。

亡くなった人の年齢の平均を見たのが下の図です。緑の楕円で囲った部分の平均年齢は、赤で囲った5/9以降の高齢者への2回目接種が始まったあとに比べ、年齢層が若いのがわかると思います。

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なお、高齢者接種の始まった5/16の週に、6/20感染判明の24歳の人(調べると2人)も死亡していますが、これは基礎疾患のある人であることが確認できました。

それでは、ワクチンごとの結果を見てみましょう。

ワクチンごとの結果 AZ>ファイザー>シノバック

1.ファイザー

最高の値は6.5です。これは、10万回接種あたり6.5人が感染後死亡していることを示しています。5/9の週に2回目接種、9/5の週に感染判明の場合に当たります。

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2.シノバック

赤が多いです。これは、接種数(接種者数)あたりのブレークスルー感染で死亡した人が多いことを示しています。

2回目接種10万回あたり死亡数が最多だったのは25人で、5/23の週に接種、9/5の週に感染判明の場合です。

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3.アストラゼネカ

アストラゼネカだけ、7月から2回めの接種が始まっているので、表を小さくしました(大きくしても大量にゼロが並ぶだけになります)。

最多は、2回目10万回接種あたり3.1人死亡で、2回目接種が8/15の週、感染判明が8/29の週の場合です。

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こうしてみてみると、上の結果は、ワクチンの効果が

アストラゼネカ>ファイザー>シノバック

となっていそうだということを示していると思われます。

この順番は、実際、公衆衛生情報サイトCodeBlueの結果やこのnoteで前回求めた有効性の結果と一致しています。

また、ワクチンの効果が接種から時間が経って落ちてきているのが、ファイザーとシノバックの場合、示されていると思われます。とくに、シノバックの場合、顕著だと思います。

一方、アストラゼネカの有効性の低下は現時点でははっきりしていないと思われます。

当然、このような結果はマレーシア保健省も分析していると思われ、実際、保健大臣はシノバック接種の場合の追加接種を検討すると発言しています(こちら)。その際に、シノバック社以外のワクチンも検討するとしています。

おまけ 接種後に感染しやすくなるか?

ここからおまけです。

まだ真偽が定かでないので、最後に取り上げました。

1回めについては接種後すぐは感染しやすくなっていそう

同じような図を1回め接種した週を縦軸に、感染した週を横軸にとってつくると以下のようになります。

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ここに、1回め接種の週と感染が判明した週が一致する週に線を引くと、そのすぐ右側に大きな数字があることがわかります。

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これは、1回目の接種のあと、感染しやすくなったことを示唆する結果です。

実際、1回め接種後2週間について雑に有効性を見積もると、マイナスになることが多く、却って感染しやすくなっていたと思われます。

このような現象は、私の知る限り、イギリス、デンマーク、ブラジルなどで見つかっています。このうち、イギリスの論文は学術誌British Journal of Medicineに掲載されており、論文要旨にも記載されています(こちら)。(ほかは現時点で未査読)

このような接種後の感染しやすさは、一般的には「気の緩み」と解釈されているようですが、それだけで説明できるのかは個人的には疑問に思っています。

このあたりに興味のある方は、私のブログ「ワクチンを打ったあとは特に感染対策」と「インドでも「接種後すぐは特に感染しやすく」」をお読みください。

2回め直後については、1回め後に比べて感染しやすくなるということはなさそう

一方で、2回めの接種した週と陽性判明した週を結んだ右下がりの斜線の上側にもブレークスルー感染死亡の増加が見られます。

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ただ、この結果を1回め接種の後の結果と合わせてみると、どうもそういうことではないようです。

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マレーシアで今まで使われたワクチンの大部分はファイザーかシノバックですが、どちらも1回目の接種のあと3週間後に2回めの接種が行われました。上の図で1回目の接種と感染した週が一致する場合を白の鎖線で、2回めの接種と感染した週が一致する場合を白の点線で示しています。

その白の点線の右側の数字(赤で薄く色付けした長方形の部分)が白の点線錠の数字より大きくなっているかというと、多くの場合そうなっていません。

したがって、2回めの接種後有効性が落ちると言ったことはないように思われます。(実際には有効性の計算で確認すべきところですが)

以上、おまけをまとめると、

1.1回目の接種後、有効性が接種しないときに比べて却って落ちる短い期間のあることを示唆する結果が得られた。
2.2回めの接種後については、1回目の接種後に比べて有効性が落ちるということはないようだ。

ということになります。







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Shun_Ishizaka
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