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御社のペルソナは喋ってますか?

このnoteについて

・産技大「人間中心デザイン」プログラムの第2講:UXデザイン論の講義についての振り返りです。
第1講:人間中心デザイン入門については下記noteをご覧ください。


・講義は20時間以上に渡って行われたので、その中で印象的な部分についてここではまとめます。

このnoteで伝えたいこと

なんとなく知っている手法の背景や目的を理解することの重要性。それを比較的知名度が高いと思われる「ペルソナ」を例にまとめます。

俺たちは雰囲気で「ペルソナ」を作っていないだろうか

業界を問わず、製品やサービス開発・企画・マーケティングなどに関わる方であれば一度は「ペルソナ」という言葉を聞いたことがあると思います。聞いたことがあるどころか、実際の業務プロセスの中で、ペルソナを作ったことがあるよー、という方も少なくないのではないでしょうか。

ここで質問です。あなたが知っているペルソナという考え方、何のために提唱され始めたかご存知ですか?

 「そんなことは知らん。だが俺たちはそれなりにペルソナを活用できている。」という方にもう一つだけ質問です。そのペルソナという手法、どんな時に有効で、どんなことに気をつけるべきか、自信を持って答えられますか?

もしすべてに淀みなく回答できるのであれば、このnoteは読み飛ばしていただいて、他の面白いコンテンツ探しに出発くださいませ。
不安を感じられた、または自信が無い、そんな方の一助になればという内容を目指しています。しばしお付き合いください。

UXデザインにおいて、なぜペルソナが利用されるのか?

まず把握すべきは「なぜ、UXデザインにおいてペルソナという手法を利用することがあるのか?」という点。
これを理解するためには、まずUXデザインのプロセスの全体像を把握する必要があります。

UXデザイン論.001

これら7つのプロセスについて、一つずつ記載しようとすると、膨大になってしまうため割愛します。
ちなみに産技大の講義では、それぞれの内容を理解するために、学生たちがグループを作って、ワークショップを行う程度には手間と時間をかけています。

ここでは、「2. ユーザー体験のモデル化と体験価値の探索」部分にフォーカスします。

このプロセスの目的は大きく2つ:

1. ユーザー調査の結果から、発見的・探索的にユーザーの体験価値や本質的なニーズの仮説を導出し、デザインが実現すべき体験価値を探索する
2. この後のデザインプロセスをユーザー中心に円滑に進められるよう、ユーザーモデルを作成する

1つめの目的に関しては、この前段階で実施されたユーザー調査の結果を分析し、仮説を立てる、といった内容です。
2つめの目的について。こちらは前述のUXデザインプロセスとは関係なく、世間一般の多くの組織に共通する前提を説明する必要があります

UXデザイン論.002

UXリサーチャーとグラフィック/プロダクトデザイナー等は異なる方が担当することが多い、という前提です。

この前提から起きうる問題とは?
リサーチャーの頭の中にはユーザーの情報が入っていますが、それをデザイナーにそっくりそのまま伝えるのはなかなかにハードです。
つまり、リサーチの結果をデザインに反映するのが難しい、ということです。

ではデザイナー・設計者がリサーチのフィールドワークも行えばいいのでしょうか?それも状況によっては一つの手段になりうるかもしれないですが、本質的な解決にはならないでしょう。以下は私がそう考える理由です。

・プロジェクトに関わるメンバー全員がリサーチに参加するということが困難なことが多い。意思決定者ともなると、時間を割くことが難しいことが少なからずあるのではないでしょうか。
・そのような、一部のプロジェクト関係者しかユーザーのことを理解できていない状態で、後続のプロセスでユーザー中心でプロダクト・サービスの設計を行うことはできるでしょうか?不可能とは言えないものの、難易度は高くなるでしょう。

だからこそ、目的の2つ目にあたる、ユーザー調査のデータに基づいたユーザーモデルを作成します。

ユーザーの主観的体験、それも様々な利用文脈があり、そのままでは扱いづらい対象を、モデル化して共有することで、利用文脈やこれまでの体験を整理し、関係者間で共有しやすくするためです。

ペルソナとユーザーモデリングの3階層の関係

ユーザー中心でプロジェクトを進める、そのためにリサーチ結果からユーザーモデリングという技法でユーザーモデルを作り、関係者間で共有する、というのがこれまでの話です。

ではどうやって?という部分が次の焦点になります

そこで「ユーザーモデリングの3階層」という概念の理解が必要になります。

UXデザイン論.003

これが何を示しているかというと、ユーザーモデリングを行う時に、「属性層」「行為層」「価値層」という3つのレイヤーに情報を分けることで、モデル化がしやすくなるのでは、という安藤先生提唱の概念です。

ここに来てようやく、
Q:様々なユーザーモデリングの手法がある中で、なぜペルソナ(法)を利用するのか?
という問いに対して、
A:この3階層の情報を総合的に整理することができるのがペルソナ法だから
という回答を提示できます。

UXデザイン論.001

注意点

ペルソナを利用する価値があるシーン、ペルソナという手法が持つ特徴について説明してきました。注意点について触れた上で、まとめに向かっていきます。

①ペルソナは諸刃の剣
リサーチデータに基づき作成されたペルソナは、関係者感でユーザーの情報を共有し、ユーザー中心のプロダクト・サービスを設計するための強力なツールになりえます。ここで喚起したいのが、ユーザーの代弁者としてのペルソナのゴールを達成するために関係者が意思決定を行うことになるため、ペルソナの品質がプロジェクトの成否を分けかねない、ということです。

理解が浅いまま、「きっとこの商品を利用するペルソナはこんな感じだろう」といったように、適当にペルソナを作って進めてしまうことがリスクになりうるということを認知することが大切ですね。

②ペルソナを物言わぬ人形にしてはいけない
それなりの時間やコストをかけてリサーチし、その結果からペルソナを作成するところまでしました。それで、おしまい。…という訳ではないですよね。
ペルソナ作成の後には、コンセプトデザインやプロトタイプ開発といったプロセスが続きます。そのプロセスの中で「もしペルソナだったら、このコンセプトに対してどんなセリフを言うだろう?」ということを考える、つまりペルソナに喋らせてみることが重要です。
安藤先生の「多くの(組織で)ペルソナが死んでいる」という言葉は印象的でした。

まとめ

随分と長く、ペルソナについて取り上げてきました。もちろん、ペルソナについて理解を深めていただくというのもこのnoteの目的の一つです。

導入部にも記載しましたが、それを踏まえて一番伝えたかったのは、”手法に溺れる”ことを避けよう、ということです。時代が変われば、その時々で新しいリサーチ手法や分析手法、バズワードなどが生まれるのは自然。それらを表面的に追っていくのは正直しんどい…
しかし、どのような時代背景があり、それらの手法が何を解決するために生まれたのか、大きな流れとともに捉えることで、目新しさに惑わされず、ユーザー中心で考え続けることができるのではないでしょうか。

参考

・安藤昌也, 『UXデザインの教科書』,丸善出版, 2016

UXデザインの理論・プロセス・手法の体系とポイント (Masaya Ando, Associate Professor at Chiba Institute of Technology,2016)

※本note内で利用している図表は、安藤昌也, 「UXデザイン論'19」講義資料より, 産業技術大学院大学履修証明プログラム『人間中心デザイン』, 2019をベースに、noteでの視認性が高くなるように@shun_kawamuraがリデザインしたものです。

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