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7月16日(日) 晴天
京都へ向かう電車のなか、持て余した時間をどう過ごすかを考えながら、ぼうっとしていた。随分と長らく遠出をすることもなかったので、遠足のような心持ちで当日の朝を迎えた。関西に戻るのはおよそ1年ぶりになる。
スマホに入っている唯一の電子書籍は川端康成の雪国で、何度も読んだことのあるそれを、飽きもせずにまた読み返していた。風景描写の美しさ、繊細な言葉選びの感性は、僕は日本の作家のなかでは一番に好きだと思う。電子書籍はあまり好きではないと言っていたが、特に古い書籍は安価であり、電子書籍なら背景も白く読みやすいという利点があった。
今回は仕事のために関西へ行くのだけど、ついでに休暇も兼ねて、懐かしの友人に会いに行こうと考えている。大阪、京都、奈良、滋賀。散り散りになった友人を訪ねながら、ここ数年の近況を語り合うのがとても楽しみだ。
山梨に移住をして、暮らしは決して悪くはないが、友人が近くにいないというのが難点であった。もともと人と過ごす機会は少ないので、全く苦には思っていないが、それでも会いたい時に会えない距離にいることが残念だと思った。
フリーランスとして生活ができるようになれば、場所に囚われずに働けるので、二拠点生活などを行ってみるのも良さそうだ。来年にはそんな風に、好きな場所で働ける環境が作れるかもしれない。
関西に戻る、という選択肢も悪くはない。まだ行ったことのない地域へ移住してみるのも面白そうだ。働き方、暮らし方がどんどんと多様化し、自分の将来進むべき道が無数に伸びていく。一歩足を伸ばせば、また幾重にも道が重なり合って変化する。そんな無数にある選択肢のなかから、自分の気持ちが一番わくわくする方へ踏み出してみたい。30歳という節目にいろんな出来事が重なりあって、人生が大きく変わろうとしていた。
降り立った京都の照りつける日差しは眩く、茹だるような蒸し暑い夏がフラッシュバックした。そうだ、京都の夏はこんな感じだった。ちょうど祇園祭に重なっていたので人通りも多く、混み合う人に紛れて重たい荷物を背負って歩いた。鴨川から吹き抜ける風は生温く、人の密度、古風な建物と外国人は対照的に、その違和感がはっきりと京都を感じさせるのだった。
まるで里山から降りてきた田舎者のように、都市の変化に驚いた。ここまでインバウンドが回復していることを、山梨に居るだけでは知ることができなかっただろう。コロナ以前のような、活気溢れる観光地としての京都に映った。
街並み自体は変わらず、タピオカのあったお店は通るたびに姿を変え、若い人の多さに圧倒される。最近の女の子はおへそを出すのが流行っているのか、メンズも藤井フミヤのような80年代の髪型が流行っていて、時代は繰り返すものだと歩きながらぼんやり考えた。令和ファッションは昭和のシティポップ感を、よりミニマムに緩くリメイクしたような印象だ。
京都に住んでいた頃によく通っていたBALの、無印カフェでランチを食べた。BALに友だちが働いていて、後日そいつの家に泊まらせて貰う予定でいる。少し涼んでから本を買い、三条から続く商店街を歩いて行った。懐かしの河原町を堪能してから、心斎橋へと向かうことにした。
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中学の頃からデートは心斎橋というマセた子どもで、大学生の頃のアルバイト先が心斎橋にあったから、降り立った時には当時の懐かしさがぐっと蘇ってきた。当時の若さや葛藤も、夜通し遊んだ気楽さや、現実逃避に生きた気の抜けた日々。アメ村の無秩序な空気、ひっかけ橋の賑やかな人通りも、5年くらいじゃ何も変わらない。
チェックインを済ませてから、心斎橋から難波の方まで歩いて、なんばパークスの屋上でくつろいだ。二十歳の頃から、大好きな場所だった。人工的な木々に囲まれ、街を見渡せて静かな場所。風が良く吹き抜けて、秋には心地よく過ごせる。都会で育ったからか、そうした人工的な街並みの自然にも心地よいと思えるのが面白い。諏訪湖のほとりで緑に囲まれながら過ごすのとは、少し違う。
昔、よく父親が連れてくれたお店で晩御飯を食べた。ビールを飲んで、たらふく白ワインを飲んで、当時の記憶を懐かしんだ。中高生の頃によく通っていたが、父が亡くなってからは一度も行ったことがなかった。あれからもう10年以上。いまでは30歳になって、一人でもお店に入れるようになった。お酒をたらふく飲んでもいい歳になった。父が生きていたのなら、好きなだけ奢ってやりたかったと思う。
夜はお酒を飲んだせいか、ホテルに戻るとぐっすりと眠った。最近忙しくしていたり、新しいことを次々に始めていたから、今回の関西旅はかなり心配していたのだった。いま自分のエネルギーを切らすわけにはいかない。そんな風に思っているからこそ、できるだけ体力を節約しながら生きている。サウナに行ったり、適度にデジタルデトックスや瞑想、運動を行うことでストレスを緩和し、体調をコントロールしてきた。
この一年で大きく人生が変わっていく予感があるからこそ、少し無茶なスケジュールでも頑張って生きていこう。明日は焙煎とクオリティチェックのお仕事、移動の合間にインスタの投稿とコーチングの予習を行う。夜は懐かしの友人と会うのが楽しみだ。
ここまで読んでくださってありがとうございます。 楽しんでいただけたなら、とても嬉しいです。