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オノマトペ、アブダクション、記号接地、マチガイ主義

【「もふもふ」で「すやすや」すると翌朝「わくわく」するのだ】

「オノマトペ」という単語を聞くとそれだけでなんだかふんわりと安らぐのであるが、この本の導入がオノマトペの研究の解説みたいなところにあって、寝床でモフモフして読むとワクワクしながらスヤスヤと寝てしまうのだが、とにかくオモシロい。

 西垣通の基礎情報学を勉強していてAIが人間のように意味の学習ができないことを記号接地問題というのだそうだが、どうもピンとこなかったのが、この本でオノマトペの記号の性質がすべて身体に接地している、なので子どもは自分の身体感覚をさぐりながらオノマトペを使いこなしていくということがサクサクと理解できて、ビンビンくる。

 そこまででも十分オモシロいのだが、後半は、そこからどのように広大複雑なシステムである言語が習得されていくのかという段で、パースのアブダクションの概念ができてワクワクさせられる。
 近頃の過熱した科学論争をTwitterで読みながら、理系の人たちの議論はアブダクション概念がまったく無視されているな、帰納と演繹だけで語られて議論が殺伐としているなと思っていたのだが、人間が言語を習得できるのはアブダクション(仮説形成)という不確かな間違いやすい推論形式が備わっているからだという著者の仮説にハタと膝を打つ。鶴見俊輔言うところの、パースのマチガイ主義(マチガイの修正と積み重ねが真理に近づくという科学観)とピシャリと繋がった。

 さらにオモシロいのは、人間以外の動物にアブダクション推論の形式はあるかという実験がこの半世紀続けられてきており、結局そのような推論形式を他の動物が持つという証拠はないという結論になっているということ。ところが、チンパンジーは種としてはそのような推論行動はないが、中にアブダクション推論の萌芽をもつ個体がいることがわかっており、それが人間への進化につながったのではないかという仮説がなされていること。
 つまり、人間はマチガイを犯す可能性のある推論を日常的にすることで、それまでは知らなかったとしても、より広い新しい環境に適応できてきたのではないかというのである。パースのマチガイ主義が人類進化に結びついた瞬間であり、読んでいて感激した。

 情報学と人間精神の学を橋渡しするヒントがみつかったように思う。



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