高木 俊介

高木 俊介

最近の記事

読書日録【ブレイザーJM「失われていく、我々の内なる細菌」みすず書房2017】

2018年11月10日 記 本の土砂崩れの中から発掘して、しばらく前に読了。 対象生産の食肉に抗生物質が使われているのは感染防止のためだとばかり思っていた。実は、少量の抗生物質が成長促進作用をもつからだと、この本で初めて知ってびっくりした。 細菌学者である著者は、その作用が抗生物質の直接の効力であるのかどうかを調べる緻密に組み立てられた実験から、肥満という結果が抗生物質によって変化した家畜の腸内細菌叢のためであることをつきとめる。 「腸内のデブ細菌」というダイエットの

    • 「触れること」の人間学 ~おさわり大好きイエスはん

      2020年8月15日 記 【「触れること」の人間学 ~今読まれるべき一論文】 哲学者の衰弱として紹介したことのあるジジェクの「パンデミック」はヨハネの「我に触れるな」という復活のイエス・キリストがマグダラのマリアに言ったという言葉ではじまる。これをジジェクは「適当な距離を置いて向かいあう時、相手の目を深く見つめることで、直接ふれあうこと以上に心を開くことができるのだ」と、パンデミックを愛を深めるきっかけとなる受苦という、いかにもキリスト教徒のようなとらえ方をしている。直接

      • 読み比べコロナ本2020

                               2021/1/11記  コロナ関連の新書新刊2冊。  こういう本を買うとまず、検査についてどう書いてあるかを見る。検査についての理解がしっかりしていて、それをわかりやすく述べていれば合格。そうでなければ、その本はエピソードは読むが論理は追わない。 そいうわけで、 峰宗太郎・山中浩之「新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実」(日経プレミアシリーズ) 黒木登志夫「新型コロナの科学 パンデミック、そして共生の未来へ」(中公新書)

        • ワクチン推進からみたワクチンへの疑惑

          【ハイジ・J・ラーソン:ワクチンの噂 どう広まり、なぜいつまでも消えないのか.みすず書房(2021)】                        2021年11月14記  人類学者による現代のワクチン不信について、その生成と伝播、そして消滅について、それをひとつの生態系の出来事としてとらえようと試みた論考。Covid‐19のパンデミックの直前に書かれている。  人類学者の磯野真穂さんが解説を書いていて、内容についてはその紹介を引用するのが手っ取り早い。人類学者の観察が普

          オノマトペ、アブダクション、記号接地、マチガイ主義

          【「もふもふ」で「すやすや」すると翌朝「わくわく」するのだ】 「オノマトペ」という単語を聞くとそれだけでなんだかふんわりと安らぐのであるが、この本の導入がオノマトペの研究の解説みたいなところにあって、寝床でモフモフして読むとワクワクしながらスヤスヤと寝てしまうのだが、とにかくオモシロい。  西垣通の基礎情報学を勉強していてAIが人間のように意味の学習ができないことを記号接地問題というのだそうだが、どうもピンとこなかったのが、この本でオノマトペの記号の性質がすべて身体に接地

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          追悼:笠木透 ~人々の歌の終わり

          2014年12月31日 記 【追悼:笠木透 ~人々の歌の終わり】  今朝、新聞を開いて今年の物故者の欄を眺めていて知った。つい先日の師走22日、笠木透が亡くなっていたという。  笠木透と言っても、一応年末の新聞に載るくらいではあるが、知っている人は少ないだろう。あの中津川フォークジャンボリーの発案・主催者と紹介すればよいのだろうか。日本の野外コンサートを切り拓いた人といっていいのかもしれない。  岐阜大全共闘の闘志だったというが、中津川労音とのつながりなのか、その後彼の作

          追悼:笠木透 ~人々の歌の終わり

          八月の原民喜

             八月なので原民喜、という本屋の戦略に易々と乗せられて買ってしまった梯久美子著「原民喜 死と愛と孤独の肖像」(岩波新書)。  「八月葉月の虫の音は いとしゅうてならぬと泣きまする」と佐藤公彦が「通りゃんせ」で歌ったように、少年の頃蝉の声に包まれて炎天に佇んでいた八月は、原爆の湧き上がるキノコ雲の音のない白黒映像と切れ切れの玉音放送の何度も繰り返される再現のせいだろう、時間の止まった死のような季節の気がする。  幼少から死のイメージに取り憑かれ悩まされてきた原は、原爆に

          八月の原民喜

          千々石ミゲルと高山右近          

           1543年に3人のポルトガル人が種子島に上陸してから1639年の「鎖国令」に至る日本の100年は、西欧と日本の第一次遭遇の時代、キリスト教をめぐる「バテレンの世紀」である。  高山右近と千々石ミゲルの二人は、この100年をほぼ同時代人として生き、かたやキリシタン大名として信仰を守り通し、かたや日本人としてはじめてローマ教皇に謁見しながら後に棄教するという対照的な人生を送った。ともに享年63歳という。  西欧と日本の遭遇というと1853年のペリー来航の印象のためであろう、

          千々石ミゲルと高山右近          

          猫好きの人は「ぬこかわゆす」脳をもつにゃん

                                   2019年8月17記 猫好きの人が猫の写真を大量にUPするのをずっと不思議に思ってきたが、今日、トキソプラズマの話(下の記事)を読んでいて疑問がとけた! ユーリカなんで書いておく。 https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/7449/?fbclid=IwZXh0bgNhZW0CMTAAAR3PRDCqvqMHZ1QCtT3IapVz_BpbvSge62lmoSdoN

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          書評:急に具合が悪くなる」 ~人生はリスクコントロールではない

          2020年5月31日 記 宮野真生子・磯野真穂『急に具合が悪くなる』(晶文社、2019)  ただでさえコロナでアタマが一杯なときにすごいものを読んでしまった。  「急に具合が悪くなる」ことを宣言された乳がん患者で、九鬼周造の研究をしている哲学者の宮野真生子と、人類学者磯野真穂による、宮野の死の時までの往復書簡。  磯野真穂のインタビュー記事が、このコロナ騒ぎの最初の頃に印象に残っていたので、手にとってみた本。 https://www.facebook.com/shu

          書評:急に具合が悪くなる」 ~人生はリスクコントロールではない

          私たちは道徳と法をあまりにも混同しているのではないだろうか

          【「ハームリダクションとは何か 薬物問題に対する、あるひとつの社会的選択」松本 俊彦他編 中外医学社 1987】 重度の統合失調症をもつ方の援助に絞って10数年走ってきたので、他の分野についてはほとんど無知、不勉強である。もうあと数年の職業生活なので、そのままで消えていくのがほんとうはよいと思うのだが、若い人たちに今の活動を譲っていくのに、これから先細りになるだろう分野だけにしぼった活動ではいけないと思って、自分の知らないところをみまわすと、発達障害と薬物依存、そして老人の

          私たちは道徳と法をあまりにも混同しているのではないだろうか

          ネアンデルタール人のDNAが混入しちゃっているのだ

          mRNAワクチンのおかげで遺伝子に関する話題が増えた。 mRNAワクチンのことはわからんだらけだが、ご本家のDNAについてはいろいろなことがわかっているようだ。 だいぶん前に書いたものだが、DNAからわかる我々の祖先の恋愛模様。 ============= サピエンスの系統のペアリング(交配)は実にいいかげんだ。  ちょっと前まではネアンデルタール人やデニソワ人らの先住種族を滅ぼして現生人類(ホモ・サピエンス)が栄えてきたと考えられていた。ところが最近のDNA解析によっ

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          つれづれ読書録:松本敏治著『自閉症は津軽弁を話さない』(福村出版)

          (2017/06/11 記) 【松本敏治:自閉症は津軽弁を話さない(福村出版)】 私は方言が話せない。 (誰や、「放言」ばかり言うとるやないか言うのは?) それでFBFがこの本を推奨しているのを見てすぐに注文した。 (アマゾンをポチるような反革命的なことはしない。) 私は、(やはり)、自閉ッ子だったのか? 私は、母が3代目の江戸っ子(3代目の途中で都落ちしたのでへどっこだと言っていた)で、父は生粋の岡山人であった。母は、ヒとシの区別ができない江戸っ子下町育ちで、いつ何時どん

          つれづれ読書録:松本敏治著『自閉症は津軽弁を話さない』(福村出版)

          思い出のゴミ屋敷たち

          その2 そこだけの楽園 治虫さんのアパートは幸福荘という、今ではありえない幸せそうな名前の、それはそれは古びた汚いアパートである。上野の地下道に入ったかのような暗くじめじめした玄関口は、まわりが洞窟のようなコンクリートに囲まれていて、こんにちわーと挨拶する私の声がわーんわーんと響くのである。 その洞窟に何戸か並んだ扉のひとつをノックすると、あーい、どーぞーという声がする。扉をあけると人が一人立てる空間の前は、まっしろなビニール袋のレンガが積んだ壁である。スーパーの魚や肉を

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          <正常>を救え

          アレン・フランシス「<正常>を救え 精神医学を混乱させるDSM-5への警告」 この人、以前「精神医学」で訳者の大野裕と対談しているのをFBでも紹介した。 (https://www.facebook.com/shunsuke.takagi.79/posts/pfbid021EYVK1qKfGZNVotjdJ4QcuFReb9zhMPg676eiBRr6z5JV84cJtWiSGy3UZMsTb26l) パラパラめくってみると、思ったほど過激な内容はなく、穏当。DSM-Ⅲの頃

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          オットー・グロース  フロイトによって追放されユングを変えた天才精神分析家

          【オットー・グロースのこと(1)】  遅ればせながらクローネンバーグの「危険なメソッド」をDVDで観る。ザビーナ・シュピールラインをめぐるフロイトとユングの物語。世紀末から20世紀初頭のヴィーンの雰囲気がわかる。スイスのブルクヘルツリ精神病院にサビーナが強制的に入院させられる場面があるが、本物のブルクヘルツリであろうか。  フロイトとユングの初対面の場面が面白い。ユングの妻が裕福であることを知った生活に追われる開業医フロイトの反応や、フロイトがユダヤ人であることで精神分析が迫

          オットー・グロース  フロイトによって追放されユングを変えた天才精神分析家