営業の9割が落ちる落とし穴(その③現代の営業に必要な姿勢)
#SaaSLovers というハッシュタグで不定期に行われているリレーブログに参加することで、数ヶ月埋もれていた本noteを公開する運びとなりました。たくさんの業界の有志が様々なトピックについて述べていらっしゃいますので、是非この機に他の方々のnoteもご覧ください。
今回のnoteは、主に法人営業、特にIT・SaaS領域でビジネスをしている企業に所属している営業職の人たちにとって有用な内容かと思いますが、基本的な考え方や社会環境等は同じだと思うので、少しでもヒントになれば幸いです。
尚、以下のnoteも併せてご覧いただくと、より理解が進むと思います。今回はこれの3つ目です。
営業活動とは
現代の営業に必要な姿勢、という怪しげなテーマについて議論していくにあたり、まず触れないといけないのは「そもそも営業とは何か」について考えることだと思います。
営業活動という言葉について、辞書的な意味を拾うと、「継続的に利益を創出する活動」という意味の言葉です。特にこれに関して大きな違和感を感じる人はいないと思いますが、ちょっとここで考えてほしいのです。
これは、営業組織に属している人だけが担う活動なのか?
そうです、継続的に利益を創出する活動、というのは、営利法人の存在意義であり、大義であり、設立の目的の根本です。つまり「企業に属するすべての従業員は、直接的・間接的に利益を創出する事を求められる」ということになります。もう少し具体的に説明します。
企業が利益を創出するためには、売上を上げるか、コストを下げるか、この2つに集約されます。例えば営業やマーケティングといったビジネス部門は、売上をあげていく役割を担っています。売上をあげつつ、コストを最適化して利益を最大化していくことがビジネス部門の根底の役割と言えます。
一方で法務・人事・財務・経営企画・総務といったコーポレート部門は、企業が経営を滞りなく遂行するための領域を担っていますが、直接的に売上を上げる部門ではないため、時にコストを下げる役割が求められます。加えて言うと、コーポレート部門はビジネス部門が最大限パフォーマンスを発揮できるような環境を整備しておく、という役割と捉えると、間接的に売上をあげることも求められている部門とも言えます。
ここで言いたいことは、皆さんの顧客がコーポレート部門の方々であっても、経済合理的な意思決定の根底には「利益創出」という原理原則とも言える目的が存在している、ということを忘れてはいけないということです。
昨今数多く存在している業務SaaSが訴求しているペーパーレスや業務効率向上、生産性向上というのは、企業が利益を創出するための手段にすぎないということを改めて理解しておく必要があります。
営業職の営業活動とは
では、営業職の営業活動とは何を指すのかというと、上述したとおり、営業職というのは営業組織に所属しているため、これはビジネス部門に該当します。すなわち「売上をあげることで利益を創出する」ことが目的となります。
では、これを読んでいる皆さんは、「売上をあげる」とは具体的に何をすることなのか明確に表現できますか?少し時間をとって考えてみてください。
営業職の営業活動の根っこである職責を原理原則と呼ぶと、以下の2つに整理をすると具体的な行動イメージが湧くと思いますが、いかがでしょうか。
さて、ここで出てくる「約束」という言葉に注目してください。これは一体何のことを指しているでしょうか。これを考えるにあたり、皆さんの会社、もしくはお客さんの会社をイメージしましょう。例えば、昨今資金調達が活況なSaaSスタートアップ業界。創業者である代表は、誰に約束をしているでしょうか?
そう、ベンチャーキャピタルですね。いつまでにどれくらいのビジネス成長を目指すことを約束し、その約束を果たしてくれることを期待して投資してもらう、という構図です。上場企業の場合は、約束をしている相手は個人投資家含めた投資家たちが主な約束相手になります。
この約束が事業における目標数字となり、営業組織の目標として達成を求められるという構図を理解すると、営業組織におけるフォーキャスト管理がいかに重要なものなのかお分かりかと思います。
何が言いたいかというと、営業職はとにかく売りまくればいいのではないということです。もっと言うと、例えば、月末まで案件を隠しておき、救世主気取りで「いやー実はこんな案件ありまして。契約締結さきほどいただきまして。えっへん」的な報告をしてする輩が時々存在するのですが、これは一言で言うと「クソ迷惑」ということです。
一方、落ち着いて考えてほしいのですが、契約書を締結する、つまり受注をすることで営業職の仕事が完了するのでしょうか?もちろん違いますね。何百枚も契約書を取り交わしても、お金が入ってこないと企業は存続できません。「売って、代金をいただく」という商売の最前線の役割として、約束した日までにお金を回収するという仕事は営業の大事な仕事の1つです。
もちろん組織として請求書を発行し、入金を管理し、記録するファイナンス部門は存在しますが、言いたいのは「お支払いいただけたのか確認し、もし未払いであれば責任を持って顧客とコミュニケーションをとる」という行動くらいは主体的にやりましょうね、ということです。
営業活動の変遷と現代の営業活動
さて、現代の営業活動について考えるにあたり、次は変遷について触れてみたいと思います。ここで述べるのはIT業界における変遷ですが、根底には他の業界にも言えることだと思うので、自分ごと化し、自分の業界はどうなのだろう?という問いを立てながら読んでいただければ。ここ20年強の流れを大きく3つに分けて考察してみます。
① 1990年代後半〜2000年代(Digitizationの時代)
俗に言うドットコムバブルあたりの時代です。インターネットが普及し、企業においてもITを導入する動きが加速していました。国としても経済を押し上げるトリガーになるだろうという期待もありました。今聞くとジワるのですが、2000年当時首相だった森喜朗さんが「IT」を「イット」と発言して世間の失笑をかったと言う話は今となっては甘酸っぱいですね(白目
この時代はDigitization、つまり「置き換えのデジタル化」の時代と言えます。飛脚で運んでいた文書をEmailで、人でやっていた作業をPCで、という動きがどんどこ広がっていました。これに伴って通信速度速くしたり、冷房でキンキンに冷やしたでかい部屋に冷蔵庫のお化けみたいなサーバーをたくさん並べたり、データを保管するためにでっかいテープ装置を置いたり(その後ストレージ機器によりリプレイスされました)。
一言で言うと「ビジネスインフラ」の領域がデジタルに置き換わっていく時代だったと言っても差し支えないかもしれません。
インフラ領域は、ビジネス領域に比べると相対的に標準化しやすい領域です。PCやサーバ、ストレージ、ネットワーク、ミドルウェアやソフトウェア、業務アプリケーション、セキュリティといったテクノロジーの活用目的はシンプルですから、導入する企業からすると業界内外を見渡すと一様に同じようなIT投資の動きをとっていたので、自社のITに関する課題は自覚し易いという特徴があります。
従って、この時代のIT企業の営業活動で求められていたのは「ヒアリング」でした。どれだけ正確に、抜け漏れなく、早いタイミングでヒアリングができるかどうか、が商売を成立させる上でとても重要な要素だと考えられていたわけです。だから右を向いても左を向いても「ヒアリングヒアリングヒアリング!」というのが上司からの指示になります。
よって、営業は足繁く通う必要があるし、接待で会食を重ねる必要があるし、週末ゴルフで時間を共にするのが是だという考え方になりますね。ある意味とても理にかなっていたのです。
この時代に出てきた言葉が「ソリューションセールス」でした。課題解決型営業、という言葉も同義で使われていましたね。懐かしい。そこから派生してコンサルティングセールスなる言葉も出てきたり。つまりITベンダー側においてプロダクトの競争力に限界がくる中、営業活動で差別化しようという狙いだったと想像できます。だってインフラですから、ビジネス成果へのレバレッジは限定的ですよね。ただでさえコストですし。
この時にヒットした本が以下。2002年刊行です。営業と販売という言葉が同義で使われているあたりが個人的に時代を感じます。よほど知的好奇心が旺盛な人じゃなければ買いたい人はいないと思いますが、さすがに今は絶版でプレ値が付いていますね。メルカリで売ろうかな。
② 2010年代〜2018年頃(Digitalizationの時代)
多くの企業のインフラに広くITが導入されるにつれ、コストに対する意識が強まり、並行してクラウドの波がやってきます。出始めの頃は「クラウドにすると安くなる」というメッセージングが主でしたね(遠い目)
一方でDigitalizationという言葉が少しずつ広がり始めました。僕がちょうどGartnerにいた頃なのでよく覚えています。Digitalizationは平たく言うと「デジタルでビジネスに付加価値をつけよう」という概念です。細かい定義知りたい人は調べてくださいね。
当時のGartnerでは「攻めのIT投資」というメッセージングでCIOに対して意識改革を促すという活動をしていました。懐かしい。
つまり、インフラ側ではなくビジネス側にITが採用され始めた、というのがこのあたりです。デジタルマーケティングとかCRMとかSFAとかマジョリティ層まで急速に広がり、情報システム部門の知らないところでビジネス部門がSaaSを契約していく、という動きが出てきました。
ビジネスサイドにデジタルを活用していくと言う事は、標準化が難しいと言うことになります。あの会社がこれをやっていたからうちの会社もこれをやろう、とはならないのです。会社によってビジネスをする市場、顧客、プロダクトやサービス、資金や人材といったアセットが各社各様であるために、企業にとってインフラへのIT導入と比べると課題を明確化する難易度が大きく上がるわけです。
こうなると、営業に求められる活動は「ヒアリング」ではなくなります。もはや課題と言うのは聞いて出てくるものではなく、お客さんと一緒に探索していくものになっていきます。
この時代に登場した理論として「チャレンジャーセールスモデル」と言うものがあります。書籍も日本語に翻訳され2015年に刊行され、ベストセラーとして業界内で広く読まれる本となりました。この本で言われている事はざっくり言うと以下の内容です。
こちらは今でも普通に買えますので、読みたい人はチェックしてみて下さい。
営業に求められる活動の軸足が「ヒアリング」から「議論と示唆の提供」へと大幅な変化が必要になったと言うことになりますが、中にはヒアリングをすることで営業は課題を確認でき、その課題を解決する提案を行うことで成約に至るケースもあります。このケースは「お客さんの賢さによるもの」と言えるのではないでしょうか。
お客さんは自分たちの業務に関してはプロです。しかし、次々と新しい技術、製品やサービスが登場してくるデジタルの領域は素人です。世の中に溢れる情報の中から自分たちの業務やビジネスをアップデートしていくために何が最適な考え方なのか、適切な方向性なのか、「ヒアリングしたら聞けるでしょう」と考えるのはお客さんに対する過度な期待ではないでしょうか。
これは、
お客さんの賢さに依存する営業と依存しない営業で成果が分かれた時代
ともいえます。
③ 2018年〜今〜これから(Digital Transformationの時代)
この時代は、やたらとDXという言葉がいわばバズワード化し、猫も杓子もDXという状態になります。2018年に経済産業省がDXを定義したことで世の中の多くの人たちに知られることとなりましたが、DXを概念として最初に定めた人物はトロント大学のエリック・ストルターマン教授だと言われています。最初に提示した年は2004年。日本がせっせと置換のデジタル化に精を出していた時に、その2つ先の概念を提唱していたと言うことになります。
ちなみに、DXの定義はストルターマン教授により、先般リニューアルしました。既に日本語訳も出ていますので、ぜひ調べてみてください。
さて、DXトレンドとは別に、大きな社会変化を引き起こした大イベントがありました。もはや説明不要の新型コロナウィルスです。様々な業界で大きな経済ダメージを与えることとなりました。
このような環境下において、企業は自社の戦略を見直すことを余儀なくされ、ビジネスゴールの修正や補正が入らざるをえませんでした。
一方で世の中はスタートアップが次々と誕生し、特にIT業界はSaaSのビジネスモデルが台頭し、特に業務系SaaSはこのバズワードと化したDXという言葉を掲げて主に生産性向上、業務効率化、コスト削減などメッセージを積極的に放っていました。
推察の域を出ませんが、買い手企業はこの厳しい環境下ではビジネスのトップラインを伸ばすことが困難になり、資本主義経済においては企業価値をあげ続けなければいけません。株主に対し成長を期待してもらい、足元の収益を改善させるためにコスト削減を目的とした「DX」と言う言葉を戦略に「とりあえず」入れ込み、実態としては本来のDXの概念ではない中で事業を推し進めるしかなかった、と考えるのはそう不自然ではないと思います。
つまり、こういった計算外の社会環境の変化の上に、昨今の「DXを掲げたSaaSの成長」があると言えます。
withコロナの状況下、これからの営業の難易度は格段に高くなっていると見ています。その理由は「課題の特定及び自覚」を顧客と議論して探索していくためには、お客さんのビジネスゴール自体に問いを立てる必要が出てきていると考えるためです。
この話は理解するためには「問題と課題の違い、ゴールとニーズの違い」を理解していただきたいのですが、課題と言うのはビジネスゴールと現状とのギャップを指します。
上述したチャレンジャーセールスモデルは、お客さんのゴールはゴールとして扱い、その上で課題の特定と自覚に向けた議論をするものです。
しかし、社会環境や経済状況が大きく揺れ動く環境下では、もはやお客さんのビジネスゴールに対しても改善の余地があるのではないか?と注目するのは必要な営業のスタンスではないでしょうか。
つまり、現代の営業職は単純に自分たちのサービスを売れば良いと言う仕事ではなくなっており、お客さんとともに社会に対する価値を共創していく仕事になってきている、とも言えます。
現代の営業に必要な姿勢
営業職として組織に属してる以上、その職責の原理原則は「受注」と「お金の回収」であることは普遍的な概念であると考えて良いですが、営業活動の軸足は時代とともに変化してきています。
社会的、経済的変化は等しく皆さんのお客さんたちにも影響を及ぼしていますが、果たして皆さんの営業活動においてどれだけの人がそのことを認識して仕事をしているでしょうか。
「課題をヒアリングしろ」「ニーズは聞けたのか」といった営業組織内のコミュニケーション、ウェビナーの参加者に対してすぐにアポイントを取る行為、売り手が伝えたいことを伝えるメールマガジン、過去の利用実績を報告するだけのカスタマーサクセスの定例会。
その活動に「お客さんの顔」はありますか?
商売は、相手あってのものです。そしてB2Bとは言え相手にするのは人間です。膨大なデータや情報を読み込んでいるAIではありません。その人間に対して一方的に自分たちの製品の特徴や機能を伝えたところで、ノイズにしかなりません。
お客さんたちは、いつも何かに困っています。しかしなぜその困りごとが起きているのか正確に把握できていません。したがって、どのように解決すればいいのかもわかりません。
お客さんは全知全能の神でもスーパーマンでもありません。商売をする前に、困っている人をなんとかしてあげたいと思う、私たちが子供の頃に教わった道徳的な姿勢を今こそ営業職に就いている人たちは再認識する時だと思います。
おわり。