The Modelの理想と現実〜Role間コンフリクトをなくすためにやったこと〜
#SaaSLovers というハッシュタグで日替わりブログを書いていこう!という活動にまたしても参加させてもらうことになりました。これは12月の #SaaSビジネスアドベントカレンダー がきっかけで、こちらもかなり濃くて有用なブログ満載なので、是非ご覧頂ければと思います。
僕が何者か、はファンの皆様には説明不要だと思いますが、一見さんのために以下を貼っておきます。
2020年1月にカンマネ2年生となり、相変わらず色んなことに右往左往しながら日々生きていますが、それなりに長いビジネス経験において得たことが少しでも多くの人の参考になったら嬉しいです。
さて、今日はもはや説明不要の名著「The Model」について、現実何をどうしたらいいの?という点を僕の経験から生々しくお伝えします。
この本はいわゆるSaaS営業組織の理想の姿としてバイブル化していますし、一方アンチも多く存在します。それだけ影響力のある本ということですね。
僕は長いことフィールドセールスをやってきて、2016年にインサイドセールスとフィールドセールスがいる新規セールスチームのマネージャーになり、2018年にアカウントマネージャーという名のフィールドセールスとカスタマーサクセスがいる既存セールスチームのマネージャーになりました。The Modelを読む前から、IS, AE, AM, CSM全ての業務や役割、Role間の連携の重要さや起こり得るコンフリクトは一通り経験し、それなりに対処してきたと思っています。
あとは新規セールス時代はMarketingとの連携は欠かせないため、意識して連携してきましたし、2019年は約半年間マーケティングマネージャーがおらず、マーケの片鱗をちょろっとだけかじらせてもらいましたので、マーケとセールス間のあれこれについてもお話できます。
この辺の奮闘記は僕にとっても非常に貴重な経験だったのでnoteにまとめたのですが、ただの備忘録が4部作の大作になってしまいました。
では本題です。
目次
1. 分業か否か
2. インサイドセールスとフィールドセールス(新規ビジネス)
3. アカウントマネージャーとカスタマーサクセス(既存ビジネス)
4. 新規営業と既存営業
5. まとめ
まず先に結論です。
The Modelだろうが何だろうが、最も大切で、絶対に無視したらいけないのは、商いの本質である
これは、僕がここ15年くらい、いつも意識していることです。
この「商いの本質」というのがThe Modelの組織・Roleの繋ぎ目をスムーズにしていくとても大事なことかな、と思っています。
なので、それを具体的にどうチームに落とし込んでいくのか、ということを書いてみました。
1. The Modelは分業か否か
Twitterを始めとするSNSではThe Modelに対する議論や意見を多く見かけますが、その中で「分業」という言葉を使う人が散見されます。僕の意見ですが、セールス組織を役割ごとに分けて効率性と生産性を上げるということを「分業」と表現することに違和感があります。
広辞苑にはこう書かれています。
ある製品を生産するために、その生産の全工程を分割し、労働者がそれぞれの工程を分担すること。アダム=スミスは、分業が生産力の発展に役立つことを強調した。
言葉の定義上、「生産」における「工程の分割」が「生産力の発展」に繋がるという意味という点が僕の感じる違和感です。時代背景からしても製造業の生産工程に使う言葉であるため、今の時代のセールス組織に使う言葉ではないと思っています。
ではどういう言葉が良いか、というと「共創」です。この共創という言葉の定義について、理解しやすく整理してある記事を見つけましたので貼っておきます。
ここの記事によると、共創という言葉について、2004年に米ミシガン大学ビジネススクール教授、C.K.プラハラードとベンカト・ラマスワミが、共著『The Future of Competition: Co-Creating Unique Value With Customers(邦訳:価値共創の未来へ-顧客と企業のCo-Creation)』で提起した概念と言われています。
この中では企業と企業の共創、という前提で書かれていますが、ここで書かれている共創における3つの関係の考え方は異なるRoleで構成されているセールス組織にも言えることかと思うので、向井的解釈で以下のようにシンプルに整理しました。
- 共通の目的に対して
- 起きている問題や課題を自分ごと化して
- 自律的に、自発的に
- 立場や職務レベル、経験等による上下関係を排除して
- 解決にむけて思考、実行をすること
と、まぁ言語化すると「うん、だよね」ですが、これをチームに落とし込んでいくことが難しいと思います。言うは易し、というやつです。豊富な経験ではありませんが、それなりに思考して実際やってきて、結構いい感じになってきている組織を見ていると、大きく間違っていなかったのかと思うので、具体的な内容をお伝えします。
2. インサイドセールスとフィールドセールス(新規ビジネス)
インサイドセールス(IS)の主な役割は、リードクオリファイです。つまり、ゆるふわの状態で「なんかようわからんけどApp Annieって色々データでわかるそうね」というリードに対し、色々コミュニケーションを取っていき、案件になるかどうかを見極めることを指します。社内指標なので細かくは書きませんが、ISのKPIはグローバルで標準化しており、「フィールドセールスが『これは案件化するわ』と認めたアポ数」と「案件数」の2つです。なのでとりあえず訪問!というやり方は今はとっていなくて、見極める、というところに重きを置いています。
フィールドセールス(FS)の役割はシンプルで、契約をとってくることで、KPIはACV(年間の契約金額)です。このKPIを達成するために、FSはISからパスされるアポを確実に案件化していきます。これに加え、FSが主体的にターゲットアカウントを設定し、アカウントプランを作り、オーナーシップをもってアウトバウンドをしていくという活動をしますが、今回はここは省略します。
当時起きていたこと
おそらく多くの企業で起こりがちだと思いますが、ISはリードにコンタクトをし、アポをとります。そしてそのアポにFSは行きます。
ただ、行けども行けども案件にならない。これだとISのKPIは達成できない。案件にならないFSに対して「なんで案件にならないの?」「ちゃんとやってる?」的な心理が働きます。
一方でFSはアポに行くと「聞いてた温度感と違うし。ていうか何このとりあえず会ってあげてるみたいな空気」のような肩透かしを食らったりするわけです。しまいには「ちゃんとしたアポをよこせよ」という心理状態になっていきます。そうなるとFSはISに頼らず、自分で人脈を辿ってリードを獲得し、自分でアポ取って訪問して、案件化したりするわけです。これはISからすると面白くないです。
ここに信頼関係はできません。
FSからすると、ISを言葉には出さないにせよ「現場に出てるセールスの方が立場は上でしょ」的な空気が漂っており、言わばセールスのアシスタントのようなコミュニケーションがあったりしました。
何をしたのか?
マネージャーとして口酸っぱく言っていたのは以下の2点。
- フィールドセールスとインサイドセールスは対等だ。役割が異なるだけ
- 僕らの給料は誰からもらってるんだ?自身のKPIだけ見ないように
これは言っても言ってもふとしたときに忘れがちです。なのでマネージャーはこの2つの原則を何度も何度も伝える必要があります。全体MTGでも、1on1でも。
立場の話では、双方に「FSのほうが上」という暗黙の了解的な空気が漂ったりします。なのでFSに対してはISが取ってくるアポの質に問題があると思うなら、FSがISに対してフィードバックをし続けていくように、という話をこれまた何度も何度もしていきました。
ISに対しては、対等なのだから、臆せず意見を言って議論をしなさいと言いました。アポが良くなかった、というフィードバックだけで改善できるわけもなく、何が良くなかったのか、なぜ良くないと判断したのか、何があれば良いのか、というフィードバックをISからFSに対して聞く事も大事だ、と言いました。
2点目は商いの本質ですね。
どうしても日々忙しく仕事をしていると、この本質は当たり前すぎて意識しなくなってしまいます。ただ時々本質を伝えて気付かせてあげるのはマネージャーの役割だったりすると思います。
なので、ISに対しては「ACVへの貢献」を期待している、と何度も伝えました。評価軸であるKPIを超えて、ビジネスへの貢献をアピールすることが社内での存在感も増すし、昇進へのチャンスに繋がるんだぞ、という点を時にニンジンのようにぶら下げながら。
つまり会社として評価基準や組織の形は出来ていても、ISとFSの間にコンフリクトが起きてしまっていては共創は起きるはずもありません。FSは自身のKPIであるACVを達成してればよいというわけでもなく、ISに対するフィードバックや改善に向けたコーチングといったものも評価時の加点として付け加えたりもしました。
繰り返しますが、この時に僕の中でブラさないようにしたのが「本質」という点です。共創をしていく上で、ISとFSは上下関係ではなく役割と職責が違うだけ。これは忘れてはいけない本質ですし、直接売りを立てる役割ではないものの、ISは常にACVを増加させるために仕事をしなければならない、というのも本質です。なぜならISの給料も、契約頂いたクライアントが支払って下さったお金から支払われていますからね。この本質は絶対に蔑ろにしてはいけない、というのが僕が軸としてもっているポイントですし、ここをいかにしつこく伝えて理解してもらい、うまくいったときの成功体験を増やすか、という事を意識しました。
3. アカウントマネージャーとカスタマーサクセス(既存ビジネス)
さて既存ビジネスにもコンフリクトがありました。今だから言えるけど、既存ビジネスのマネージャーをやってほしいと言われた時にまっ先に頭に浮かんだのは「色々あるからめんどくさそう・・・」でした笑
ただ追々日本法人全体をリードしていくというステップが見えていた事もあり、ビジネス全体をちゃんとやっておく事は必要だという事で、引き受けました。
当時起きていたこと
弊社の既存ビジネスチームは、上述の通りアカウントマネージャー(AM)とカスタマーサクセス(CS)で構成されています。そしてAMはUpSell ACVをKPIとしてもっており、CSはChurn rate、すなわち解約率をKPIとしてもっています。
そして原則全ての既存アカウントに対し、AMとCSがペアで担当をするという体制になっていました。従って、クライアントとの定期・不定期のMTGにおいて、アジェンダを作るところからしてコンフリクトが起きるのです。
AMは、UpSellを取りたい。
CSは、解約にならないように活用促進のサポートをしたい。
この2つのベクトルがバッチリ合うことは稀でした。何故ならApp Annieのプロダクトは「3rd partyのデータ」だからです。
どういう事かと言うと、契約頂いたクライアントには、活用をしてもらわないと極端な話、何も起きないんです。文字通り、何も起きないんです。この辺りが業務システム等と大きく異なる点ですね。
なので、CSとしてはクライアントのビジネスゴールを把握して、何が課題なのかを理解し、そこにどうデータを活用することで解決の一助になっていくのか、をヒアリングしながら考えてデータの活用定着をしっかりサポートしたいわけです。
ところがこのような「定着が必要なクライアント」とのMTGにAMが同席をすると何が起きるか。そうです。UpSellのためにニーズを探りにいくんです。そして追加でプロダクトを提案しようとするんです。
まだ十分に活用しきれていないクライアントに対し、CSは活用のためのサポートをしようとしている横で、ニーズを探るコミュニケーションが行われるので、これはCSからすると「ちょっとちょっと、なんか売るの?まだ満足に活用できていないこの人に、なんか売ろうとしてない?」ってなるわけです。
そしてAMからすると、「いや絶対ここには追加であれ売れる。だって株主にあの領域注力するってコミットしてるし」っていう主張があるわけです。
これ、どっちも悪くないんですよね。お互い、自分の職責をきちんと遂行しようとしているんですから。でも、少なくともこのAMとCS間には共創の発想は生まれず、「何か自分のことばっか考えてるヤツ」っていう印象を抱いてしまいます。
ここに信頼関係はできません(2回目)。
何をしたのか?
この時も、本質が大事でした。
僕が伝えたのは以下です。
まず、僕らの商売の本質を図で説明しました。
UFRというのは Up For Renewalの略で、「リニューアルするべき既存契約」となります。そして幾らかは残念ながら解約になってしまいますが、Up Sellによって既存クライアントのビジネスが増加します。その上に新規ビジネスが乗ってくるという構図ですね。
そして大事なのは、僕ら全員の給与とコミッションは、この赤矢印の差分から出てくるんだよ、というメッセージです。財務会計の視点で細かく言うと正確には違いますが、視覚的に表現するにはこれが良いと思いました。
そして次のスライドで見せたのはこちら。
1枚目と違うのは、そうです。Churn(解約)が大きく増えたケースです。大袈裟なほど解約が増えておりますが、現実にこれが起きたら地獄です。
ただ、このケースで言いたい事は1つ。
解約が増えると、僕らのビジネスは本質的に破綻する
僕らのビジネスは正確にはSaaSではありませんが、踏襲しているビジネスモデルはSaaS型です。つまり既存クライアントのビジネスが土台にあり、そのビジネスが長期に渡って継続する上に、新規のビジネスやUpSellが乗っていく事で継続的な成長を担保できる、というものです。
破綻、というと大袈裟ですが、ARRが増えずに維持をする為にひたすら新規を取りまくっていく、というのはビジネスモデルとして破綻していると言っても良いと思います。穴の開いたバケツで水をすくい続ける感じ。虚しさしかない。頑張っても頑張っても成長しないんですからね。何か書いてて苦しくなってきた。
で、続けて僕が伝えたスライドはこちら。
まず前提として、継続的な活用ありきだよ、という事です。継続的に活用してもらっている状態があって初めて、UpSellの機会が生まれてくる。この順番を間違えないように、という事を何度も何度も伝えてきました。
- 継続的な活用があり
- 契約を更新して頂く
- その上にUpSellは存在する
という事を、特にAMに理解してもらうことを重要視しました。
とはいえ、AMはUpSellを取っていかないといけません。それが役割だし、企業が成長をしていく上で欠かせないポジションであることは変わりません。そこで僕が上記のような商いの本質をメンバーに理解してもらった上で、日々の仕事の仕方、動き方を決めました。
これは上記の本質を実際の仕事に適用させていくにあたり、具体的な仕事の仕方として既存ビジネスチームのガイドラインとして設定をしたものです。その一部をご紹介します。
基本的な動き方として、UpSellの案件が当該アカウントに存在すると見込める場合は、AMとCSはそれぞれバラバラに動きましょう、という方針にしました。
AMの仕事はUpSellを取ることであるため、すでに契約をして頂いている部門へはCSが定着のためのサポート活動をしていくことで、AMは別の部門、組織を開拓していくという動き方になります。もちろん現契約先で、活用定着後、追加で契約を増やしたいという話をいただく事も多々ありますが、その際はCSが一旦話を頂き、そしてAMにパスをするという流れです。
ここで出てくるCHやEBという単語はここでは詳しく説明しませんが、良ければ僕のセールストレーニングをご提供しますのでご相談ください。
他にもパターンはあるのですが、言ってしまうと単純で、一緒に行ってたらコンフリクトが起きるのであれば、別々に行動すればよろし、という発想です。現在はAMとCSはお互いが共創できるようになっており、クライアントとのMTGに一緒に行動することでおかしな事になったりしていませんが、まず一旦各自の職責を遂行してもらうために、行動ガイドラインを作った、ということになります。
結果、App Annie JapanのNet Retentionは世界で最も健全な状態になっています。これは現マネージャーはもとより、各AM/CSがお互いサポートし合いながら既存のクライアントとのビジネスを大切に維持深耕させてもらってきた、いわば共創ができ始めている、と言っていいかもしれません。
4. 新規ビジネスと既存ビジネス
この2つの営業チーム間の連携は、それぞれのメンバーに僕らの商いの本質を理解してもらっていることで、大きなコンフリクトや隙間、グレーゾーンは限りなくゼロになっています。
ありがちなのは「この企業、既存アカウントの子会社だからやらせて」「いや、ここ新規でしょ。ダメです」みたいなやり取りですね。どこの会社でも起こりえる現象かと思いますが、現在僕らの組織内では起きておらず、「取れる人が取ろうぜ」という暗黙の了解が働いて、皆One Teamとして同じ方向を見て仕事をしているように見えています。非常に、非常に頼もしいです。
5. まとめ
僕が、マネージャーとしてやった事は、実は非常に単純です。難しいことは実は何一つやっていません。
- 本質を疑わない・ブラさない
- 何度も何度も伝える
この2つだけです。
The Modelは非常に名著ですし、この組織を理想として多くの企業が参考にしていると思いますが、一方で僕が経験してきたようなことも多くの企業が直面していると思います。
ここを解消し、より強い組織にしていく上で、何かヒントになることがあれば幸いです。
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