だから、Mr.Children。
もし音楽が無かったら、どんな世界になるだろう?
僕は想像してみる。
答えはすぐに出た。
きっと、音楽なんて無くても、世界は滞りなく回っていく。
☆ ☆ ☆
「ミスチルの箒星っていい曲じゃない?」
高校生の時、クラスメイトに向かっていった何気ない一言が、全ての始まりだった。
・・・
「おー、わかる?」
わかる?って、なんだ。
その後、彼と話していて、理解した。
その時たまたま話しかけた彼は、実はMr.Childrenの大ファンだったのだ。
甘いマスクと渋い声が素敵な彼は、ミスチルのCDをほとんど全てを持っているということだった。
「オススメのCD貸してやるよ」
そういう風にして、僕はMr.Childrenと出会った。
初めまして、Mr.Children。
・・・
貸してくれた3枚はどれも魅力的だった。
キャッチーなメロディと、考え抜かれた文学的な歌詞が絶妙にマッチし、その音楽の虜になった。
・・・
「それにしても暑いなー」
大学生になった僕らは、二人で静岡のつま恋に来ていた。
ap bank fesが開催される場所だ。
そのフェスは、Mr.Childrenが(正確にはボーカルの桜井和寿さんが)立ち上げ、毎年、芝生が一面に敷かれた眩しすぎるほど綺麗な『つま恋』という会場で行われていた。
・・・
友人は、すでにライブでミスチルを聴いたことがあると言う。
対して僕は、初めて生で聴くMr.Children。
「桜井さんは、マジで歌が上手い」
そう友人は言っていた。
・・・
自由席だったので、僕らは人混みを分け入って最前列に近い場所を陣取った。
ステージの目の前だ。
特等席と言って差し支えないほど素晴らしい場所だった。
・・・
一曲目が始まった瞬間、僕の目から涙が溢れた。
初めて生で見るMr.Childrenは、呆れてしまうくらい格好よかった。
これ以上ないほどの日焼けをして、フェスの最後、打ち上げ花火を見た。
計画性の無さから終電を逃した僕らは、その夜静岡のカラオケで、Mr.Childrenを歌って夜を越した。
・・・
テレビに食いつくようにして僕が見ているのは、新垣結衣の演技で話題のドラマ・コードブルーである。
ガッキーが好きで見始めたのがきっかけだったが、流れてくる主題歌にハマってしまった。
そう、ミスチルのHANABIだ。
決して捕まえることのできない花火のような光だとしたってもう一回もう一回もう一回もう一回僕はこの手を伸ばしたい
Mr.Childrenが出す新曲は、いつもいつの間にか僕の人生に入り込み、僕の心を奪っていく。
・・・
花火が好きだった。
大学生の頃、友人と様々なところへ旅行に行った。
ある時、僕らは、新潟県まで車でドライブした。
長岡で行われる花火大会。
そこで、視界に収まらないほど大きく、迫力のある花火を見た。
ボンヤリと輝く、無数の光。
手を伸ばしたけれど、やっぱり届かなかった。
さよならが迎えにくること最初から分かっていたとしたってもう一回もう一回もう一回もう一回何度でも君に会いたい
HANABIの二番のサビは、少し寂しい気持ちになる。
・・・
大学生になった当初、mixiが全盛期だった。
特に、コミュニティ機能が盛り上がっていた。
僕はMr.Childrenのコミュニティに入った。
そこでは「オフ会」というものが活発に開かれていて、なかでも、Mr.Children縛りのカラオケ、通称「チルカラ」をするのがオフ会の定番だった。
僕は人生で初めて「オフ会」に参加した。
インターネットで知り合った人と会うことも、Mr.Childrenの繋がりであれば何も怖くなかった。
そして実際、それはとても楽しかった。
・・・
オフ会に慣れてきた僕は、今度は自分が幹事となって「チルカラ」を主催した。
仲のいいオフ会メンバーに声をかけたら、10名以上が集まった。
みんなで大量のお酒を持ち込んで、カラオケでMr.Childrenを歌った。
そこで、悲劇が起きた。
一人が倒れたのだ。
いくら呼びかけても、叩いても、彼は起きず、救急車を呼んだ。
結局、大事には至らなかったが、急性アル中の一歩手前ということだった。
初めて幹事を務めたオフ会で起きた悲劇は、しかしながら、僕の心の傷になった。
僕は少しだけ、Mr.Childrenがトラウマになった。
自然と、距離を置くことになった。
さよなら、Mr.Children。
・・・
古代ギリシア時代から、音楽理論はすでに生まれていたと言われている。
人々は音階を学び、楽器を奏でる。
歌を歌う。
それは人間に与えられた特権である。
しかし、音楽がなくても、人は死なない。
実際、Mr.Childrenがなくなっても、僕の生活は変わらなかった。
本当に何も、変わらなかった。
人生に音楽は必要ない。
悲しいけれど、それが事実だ。
・・・
Mr.Childrenを忘れて、いくらかの月日が経った。
・・・
そうして、ある朝、とあるニュースが舞い込んできた。
…。
なんだって!?
ミスチルの映画?
アーティストが映画を公開するなんてアリなのか?
居ても立っても居られなくなり、僕はMr.Childrenが好きな友人を誘って、映画を観に行った。
やっぱり、彼らは、無茶苦茶に格好良かった。
僕は泣いていた。
・・・
Mr.Childrenの真の凄さは、あるいは、彼らが作り出す音以外の部分に宿る。
既存の日本の音楽シーンを塗り変えるような、前例のない新しいことにどんどんチャレンジする、そういう姿勢だ。
ほとんどが未発表曲で構成されたツアーをやったり。
ドキュメンタリー映画を作って映画館で上映したり。
ap bank fesという、ピースフルなフェスを発明したり。
そして、この文章を書いている最中、彼らはまた新しいことをやってのけた。
全楽曲のサブスクリプション解禁。
その発想は、畑の外にいる僕から見ても、いつもクリエイティブだ。
その想像力が、あるいは創造力が、ファンを惹きつけてやまないのだろう。
・・・
Mr.Childrenを好きになってから知った、大事なことが1つある。
好きなアーティストのライブは、絶対に行ったほうがいい。
確かにチケット代は少し高いかもしれない。
そして別に、ライブに行くことによって、世界が変わるわけでもない。
でも、その時その場所にいたという確信は、僕らの生きる力になる。
より強く生きられるようになる。
それは、ライブでしか得られないものだと思う。
・・・
僕は大人になりたくない。
若い感性を、好きなものを「好き」と言い切れる情熱を、いつまでも大事にしていたい。
芝生でケラケラと笑いながら、コロコロと転がっていたい。
だって、大人には新しい世界なんて作れないから。
大人になって、分かった顔で仕事をしてお金を稼いで、その先に一体何があるというのだ?
だから。
僕は、だから、Mr.Childrenを聴く。
☆ ☆ ☆
もし音楽が無かったら、どんな世界になるだろう?
僕は想像してみる。
答えはすぐに出た。
きっと、音楽なんて無くても、世界は滞りなく回っていく。
しかしやがて、抑えきれなくなった想いを抱えた人間が、大きな声で歌い始めるだろう。
そしてその類まれな才能が、否応無しに人を惹きつけ、いつしか国民的アーティストになっていくのだ。