コロナ後の世界を生きる――大きな振れ幅に「変革力」を
米西海岸のシアトルにある老舗高級レストラン「キャンリス(Canlis)」。新型コロナウイルスの感染拡大が米国内で広がる中、約1週間で業態を大転換した店として全米で知られるようになった。
湖を一望できる眺望が自慢のキャンリスは、客単価が1万4000円前後(当時)という高額ながら、通常なら1日150~200件の予約が入る人気店。だが、シアトルのあるワシントン州でコロナウイルス感染者が増えて以降は客足が急速に遠のいた。
2020年3月上旬、危機感を覚えた経営者は115人いる従業員らと話し合い、テークアウト中心の店へと業態転換を図った。
3月9日から、従来はほとんど提供していなかったハンバーガーを毎日1000個、ベーグルを同400~500個作るために厨房を再設計。夜は持ち帰り用ディナーを用意した。
「熟成牛のリブステーキ」がメインのセットは92ドル(約1万円)、「ラム肉のハーブ焼き」は54ドル――。別途料金を出せば店のセラーにあるワインボトルの注文も可能で、アプリで予約すれば夜には玄関先に届けてくれる。配達員と接触することもない。
今では毎晩200食を受注するという。大勢いるホールスタッフは配達員として雇用を継続。3月15日にワシントン州でバー・レストランの一時休業命令が出されると16日にダイニングルームを閉鎖したが、1週間で売り方を大変革したことで急激な変化の波を乗り切った。
東京都内でも緊急事態宣言を受け、20年4月11日午前0時から飲食店の夜間営業自粛が「要請」された。ほとんどの店で灯が消え、夜の街を歩く人は途絶えた。休業補償の見通しも出ず、飲食業界から悲鳴があがる。
多くの店はテークアウトで少しでも売り上げを立て直そうと必死だが、夜営業が中心の店では「焼け石に水だ」と嘆息も漏れる。
ただ、多くは「いつかは通常営業を再開できる」との観測からビジネスの仕方を変革するには至っていない。
新型コロナウイルス禍で特徴的なのは、「この事態が、いつ収束するのか」の先行きが全く見えない点だ。どこまで辛抱すればよいのか、いつになれば過去と同様に平穏な暮らしが戻るのか。戦時中と同じく、非常時がいつ終わるとも知れない環境下で長きにわたり状況への適応を強いられる。
政府や各自治体もゴールデンウイーク最終日の5月6日をめどに緊急事態が解除できるか推移を見守っているが、延長される可能性が濃厚だ。自宅へ閉じこもりを強いられる状況で経済への打撃も相当深刻になってきた。
コロナ禍の現在とその後で世の中に求められているのは、臨機応変に自らの仕事のあり方やビジネスの仕方を変えていく「変革力」だ。ITやインターネットの急速な発展によって世界の変わるスピードは加速したが、コロナ後は今まで以上に変化へ即応し改革する能力が欠かせなくなる。
政府や自治体も個人への10万円給付や中小企業への助成金、特別融資を通じて支援策を強化し始めている。しかし、非常事態が1年、2年と長く続けば、支援の拡大・存続にも限界がくる。
国内外へ移動せずに多くの人が「巣ごもり」する状況でも企業が利潤を生み、消費者も健全な生活をするには、新しい環境下でビジネスモデルを組み替え、生活様式を整えていく「変革力」を磨く必要がある。
都心では通勤を制限して在宅ワークへの移行が急速に進んでいる。筆者が3月まで留学関連プロジェクトチームに参画していた文部科学省では、それまで難色が濃厚だったリモートワークの導入がわずか2週間で決まった。本気でやろうとすればできるのだ。
今後、広いオフィスも今ほどは不要だ、どこか近場でサテライトオフィスを設けよう、といった動きも盛んになるかもしれない。八戸にいてリモートで首都圏での仕事をするなど新たな働き方も広がるだろう。
移動の自粛は旅行・観光業界に危機的で深刻な影響を与え始めているが、コロナ疾患向けのワクチンや治療薬が開発されて「普通の風邪」と同じになり、移動が「解禁」されれば旅への欲求は急速に高まるに違いない。みんな在宅に飽きているからだ。となれば、その変化に再び対応すべきスピード感が不可欠になる。
今後は経済環境の振れ幅が一方の極端からもう一方へと大きく変動するのが当たり前の時代が来る。「変化する者だけが生き残る」という名言はコロナ後にこそ一段と重みを増す。
(初出:2020年4月28日付「デーリー東北」紙:為替レートや社会状況・コロナ禍後の見通しについては掲載時点でのものです)