トロント、ひとつめの仕事。
少し前の話になりますが、約3か月間働いていた仕事を辞めました。トロント生活で初めて勤めた会社でした。かっこよく言えばサプライヤー、リアルに言えば鮮魚を扱う倉庫スタッフです。カナダ産サーモンやオイスター、タコイカシイラムールガイタイハドックコッドマックレル……。朝10時から夜7時まで、トロント中のスーパーやレストランから寄せられたオーダーをもとに、魚を箱に詰めたり、製品が入った箱を積んでいく業務です。広い倉庫を縦横無尽に歩き回ってオーダーをコンプリートしていく作業は、地味だけど楽しく、ゲームをしているような感覚でした。歩数計は毎日15000歩以上。カロリー過多が避けられない生活なので、仕事で動き回れるのはありがたいことでした。
ただし倉庫内は、夏のどんなに暑い日でも冬の寒さが保たれていました。ボアジャケット、厚手のタイツ、パンツ、靴下と安全靴という完全装備が欠かせません。風邪をひきにくいタイプの私ですが、入社してから1か月に1度は体調を崩してしまいました。
倉庫チームは私を含め10人ほど。人種的には、「4:4:2=インド系:アフリカ系:その他」という構成でした。完全英語環境でしたが、私は英語力に自信がないため、伝わらないことで誰かに迷惑をかけたくないと、とにもかくにもアンテナを高く張るようにしていました。頼まれごとが完璧に聞き取れなくても、相手の動きで推測する。何をしてほしいのかは、聞き取れた数単語と相手の表情とそれまでの動きで、結構分かるものです。自分にできることを探し続け、気づいたらすぐに動く。中学高校時代の部活動で先輩の顔色ばかり気にしてた頃を思い出しました。
気を張りながらちょこまか動いていたからか、よく「Relax! Calm down!」と言われていました。流石は外国人(今は私が外国人なのですが)。スピードはあまり重視しません。その上クオリティも、あまり重視しません。つまり何も重視しない……。魚一匹床に落としても、「あーやっちゃった」という感じで落ち込むことなく新しいものに変えたり、水にさっと通してそのまま箱に入れる、みたいなことはざらでした。切り身についた発泡スチロールの破片を取り除こうとした時も「そんなことしなくていいよ~」と止められたし、高級魚が入った箱も雑に運ぶ。段ボールなどの備品は、2階の備品室から1階の倉庫に投げて補充。「雑~~」と何度驚いたことでしょう。ヒヤリハットしかない世界です。それでも普通に仕事って成り立つのね…。
しかし思い返せば、私は日本で働いていた時も「こんづめすぎないで」「マジになんなよ」と度々言われていました。クオリティもスピードも求められる日本でも、それが真逆の国でも、同じようなことを言われていた。そうなると、真面目で空回りしやすい気質は、自分の本性であることを実感します。
自分に対する評価について、日本とトロントで唯一違っていたのは、こちらでなんかちょっと、人気者になれたということです。まあ内訳、「日本人女性」という肩書、気弱そうな見かけ、独身男性ばかりの職場、と舞台が揃っていた結果でしょう。モテたというよりは、舐められたという言葉の方が合っています……。それまで恋愛事に無縁だった私ですので、この点非日常を味わえて最初のうちは楽しかったのですが、それが原因で人間関係がややこじれてしまい、この会社を跡にしました。そんな理由で仕事辞めるなんて。
さて、面白い仕事が経験できたし、次はレストランやカフェでキラキラ接客をして、”THEワーキングホリデー!”のような仕事をしたい。職探しをしたところ、仕事を2つゲットしたのですが、最近1つクビになりました。もう1つは続いていますが、イメージしていたものとは全く違った仕事。なんも予定通りに進まないけど、とりあえず面白いからOKです。それは近々報告させてください。
ちなみに「魚の開き」は「butterfly」、「鱗雲」は「Macrel Sky(鯖空)」と言うそうです。倉庫で働かなければ知らなかった英語の数々。所変われば使われる英語も変わります。着々と終わりに近づくトロント生活。貯金とビザが許す限りこの場所で、いろんな人と出会いたいし、いろんな言葉と出会いたいです。