見出し画像

Interview13/居場所の“耕し方”

前原さん(元バイト仲間・児童養護施設職員)
なっちゃん(元バイト仲間・保育士)

大学一年生の頃、バイト先のイタリアンレストランに、
同い年の“前原さん”が入ってきました。
彼女は少しおっちょこちょいな性格で、
忙しい時には周りから少し冷たい対応を受けていたこともありました。
その様子を見て私は、
彼女は長くは続かないかもなと
心の中で思っていました(前原さん、ごめん!)。

ですが前原さん、仕事を辞めないどころか、
時が経っていつの間にか、
お店で一番の人気者になっていました。

私は傷つくとすぐに逃げ腰になるタイプなので、
彼女の続ける力や現状を変える力は不思議で仕方ありません。
そこで今回は、前原さんのおうちにおじゃまして、
同じくバイト同期で、もともと前原さんと友達だった
保育士の“なっちゃん”にも協力してもらい、
当時前原さんがどんな気持ちで難局を乗り越えたのか
思い出してもらいました。

ちなみに前原さんは大学卒業後に児童養護施設で働き、
大学時代に知り合った旦那さんとご結婚。
今は“ゆずはちゃん”というかわいい娘さんのお母さんです。
(取材:2022年2月)

左が前原さん、右がなっちゃん

生粋のいじられキャラ

――えっと、今日は昔の話をしながら、前原さん持ち前の“根性”について聞きたいです。なっちゃんは、前原さんをよく知る友人の1人として、いろいろ教えてほしいです。

なっちゃん
おっけー。ポップコーンいただきまーす。

前原さん
食べて食べて~。できたてだからあったかいうちに。

――ありがとう。カレー味だおいしい。

前原さんの娘さん、ゆずはちゃん

――ええ、まず2人は高校と大学が同じだったんだよね。保育系の。それで今なっちゃんは保育園の保育士さんで、前原さんは児童養護施設で働いてて、育休中。

前原さん
そうそう。中高大の一貫校だったんだけど、なっちゃんは中学からで、私は高校から。高校では別のクラスだったからそんなにかかわりはなかったんだけど、共通の友達が多くてお互いのことは知ってたんだよね。それで大学から、一緒に授業受けたりお昼ご飯食べたりするようになったって感じかな。

なっちゃん
うん。エスカレーター式の学校だと、中学組と高校組で分かれやすいもんなんだけど、前原は高校からなのに中学組とも仲良くしてたよね。いじられキャラとして(笑)。

――バイト先でもいじられキャラだったけど、やっぱ学校でもそうだったんだ。

前原さん
あはは、なんていうか、自分のことを全部ネタにして生きてるって感じ。

――その立ち回りは嫌ではない?

前原さん
全然気になんない!

――おお~。イタリアンレストランのバイトのことって覚えてる? 最初辛そうだったよね。

前原さん
覚えてるよー。きつかった。何回も失敗して怒られてさー。だって、ピザがみんな同じに見えんだもん。なんか全部似てたよね?

――そんなことはなかった気がするけど……(笑)。なんだろ結構、周りからのあたりが強いように見えてた。

前原さん
なんかね。怖かった。だから最初の方は出勤時間ぎりぎりに来て、お店の人と最低限の会話しかしないようにしてたな。

――うんうん。今だから言えるけど、前原さん、正直長くは続かないだろうなって思ってたんだよね……。あ、ごめんね。

前原さん
あはは。いやいやそうだよね。

――そしたらさ、辞めないどころか、なっちゃんとかお友達を連れてきだしてさ。ほんとすごい!って思ってたんだよ。

前原さん
いやいや、「もうちょっと頑張ってみよう、もうちょっと頑張ってみよう」っていう繰り返しでずるずると(笑)。性格的なものなのかな。自分で決めたんだから中途半端で辞めたくないって思って。

なっちゃん
ほんと根性あるよねー!

前原さん
あはは。そんなある日社員さんに「人足りてないんだけどいい人いない?」って聞かれて、なっちゃんたちに紹介してみた。味方がほしかったしね。

――いやあ私なら紹介できないな。自分が失敗してるところとか、先輩から怒られてるとこところ、友達に見られたくないって思っちゃうもん。味方を増やすって発想は……私にはない。
でもさ。なっちゃんも、多分前原さんからお店の愚痴聞いてたはずなのに、よく面接したね。

なっちゃん
そんなに詳しい話は聞いてなかったから。「今日バイトだ……」とか「バイトやばいんだよ、もうやだー」とかそれくらいの愚痴はよく聞いてたけどね。あと、「やばい状況の前原、ちょっと見てみたいな」って思ったりして(笑)。

前原さん
ねえ~~。こわ!

なっちゃん
ふふふ。それにさ、「前原がいるから楽しいっしょ」って思ったの。

――おお~いいね。

なっちゃん
それで面接行ったらいい人たちばっかだったから、「やっぱ前原言ってること大げさじゃん!」って思った(笑)。

前原さん
ねえ~~。

あの日パスタをぶちまけて

――私が好きなエピソードが、前原さんがパスタをホールにぶちまけた話なんだけど。

前原さん
LLサイズのパスタね! 400グラム! 今考えれば絶対無理なのに、キッチンの人にそれ2個持たされたの。あっついし、おっもいし、やばい!って思って、とっさにお客さんいないところまで走ってバシャーンって。

なっちゃん
あははは! それ超えられるエピソードってないよ~(笑)。私その場にいなかったけど、衝撃的すぎてすごい覚えてる。

――私はそれこそなっちゃんからそれ聞いて、思わずすんごい笑っちゃった。なんだろ、前原さんだから、面白い(笑)。今でも想像したら笑っちゃうもん。でもさ、私だったらその後お店に行きずらくなっちゃうかも。やっぱり泣いた?

前原さん
いや、泣かなかったけど、怒られてずーんって感じ。その人が最後冗談で「ハーゲンダッツ買ってこい」って言ってきて、ほんとに買ってったの覚えてる、あはは。

――前原さんらしい(笑)。バイトで泣いたことってあった?

前原さん
いや~どうだろ、思い出せないから、多分ないと思う。すぐ忘れちゃうんだよね。

なっちゃん
基盤がポジティブだよね。

前原さん
うふふ。友達に愚痴ったり、SNSとか日記に気持ちぶつけたらもう平気。

なっちゃん
弱音を吐きつつ走り続けるタイプだよね。


荒れた土壌に城を建てる


――なっちゃんたちがお店に入ってきてから、変わった?

前原さん
うん! 楽しくなった! それまでお店にぎりぎりに来てたのに、早めに来てなっちゃんたちとまかない一緒に食べるようになってさ。幸せだった~。それでかな、自然と他の人とも話すことが増えて。

――前原さん、なっちゃんたちが入ってきてからすごいスピードで人気者になってったよね。ビール好きなのが知れ渡って飲みキャラになったりしてさ(笑)。

前原さん
ね~(笑)、なんかいつの間にかそういうキャラになっちゃった。多分なっちゃんたちが私のことをお店の人に話してたのかな。

なっちゃん
そうそう。「前原こないだも~~」って、やばいエピソードとか言いふらしてた(笑)。私たちが前原のことを話すようになったから、お店の人が「あ、そういうキャラ?」って扱い方が分かるようになったのかも!

前原さん
あはは! そうかもそうかも。やっぱりなっちゃんたちの存在に救われてたんだわ。私から「こう扱ってください!」とは言えなかったから。

なっちゃん
てか最終日遅刻してたよね。

前原さん
そうそう懐かしい! 前日飲みすぎちゃって。

なっちゃん
「前原~」ってお店のみんなで笑ってさ。

前原さん
あはは! ほんとやらかしてばっかり。でも楽しかったなあ。

――入った当時と比べると扱いが全然違う……圧倒的人気者になってる……! ほんとさ、荒れた土壌を自力で耕して、そこに自分の城を建てたってわけでしょ。すごすぎる。

前原さん・さきちゃん
あはは~! たしかに!!

自分の意志でダイブしたら、
あとは流れに身をまかせる
続けてればいいことがある

――バイトを辞めようとは思わなかった?

前原さん
なんだろう……意地? 辞めるって決める勇気がなかった。途中で辞めるってこれまであんまりしてこなかったんだよね。大学のサークルも高校の部活も、結構厳しかったけど続けてさ。
自分で始めたんだから「もうちょいやろう」「もうちょい」「もうちょい!」の繰り返しでずるずる。結果続けてよかったって思える経験がそれまでにあったからさ、続けてればいいことがあるって無意識に信じているのかも。
あと、一回かかわった人とできるならずっとかかわっていきたいって気持ちもあるかな。辞めるって言った後、仲間に会うのってなんか気まずいじゃん。

なっちゃん
大学卒業して6年以上経つけど、実際こうしてバイト仲間でたまに集まれてるしね。

前原さん
うん! ほんとよかったよね。
なんていうか、私は流されやすいタイプだと思う。激流に流されるまま続けていくというか。でも、始まりは自分の意志で決める。

なっちゃん
おおお~かっこいい。

ゆずはちゃん(前原さんのお子さん)
んんんん

前原さん
ご飯食べたからねむねむだね。

前原さんの旦那さん
2階で寝かせてくるよ。

前原さん
ありがとうおやすみ~~~。(ゆずはちゃん2階へ)アレクサ。ゆずはを見せて。

――待って何それ!

なっちゃん
あ、ベビーモニター。

前原さん
そうそう、寝室にカメラ置いてて、リビングでも見られるようにしたんだ。

――最近では普通?

なっちゃん
わりと。お母さんがお風呂入る時とか、おうちが広い場合とか、赤ちゃんの様子がいつでも確認できるんだよ。あははすごい寝てるね。

――さすが保育士さんと保母さん……驚かないのね……。ちなみにさ、ゆずはちゃんが大きくなって、もしバイト先で、前原さんと同じように冷たくされてたらどうす

前原さん
(食い気味)え、止める止める(笑)。「もっといいとこあるよ、辞めな~!」って言うよ!

――あはははは!「続けなさい!」じゃないんだ。

前原さん
辛い思いしてほしくないもん! うふふふ!

なっちゃん
即答!あはは!
自分に厳しく、人に……というか子に優しく。親だね~(笑)。

(本編おわり)

仕事の話。
保育系の仕事についても聞きました。



前原さん
でもほんとさ、大学卒業して保育士の資格とってよかったって思うよ。

なっちゃん
ほんとね。自分で試験勉強とか絶対厳しいもん。

――どういうこと?

なっちゃん
保育士の資格を取るには、保育系の大学に通ってその間現場実習を数回経験して、卒業要件を満たして取得する方法と、自力で勉強をして年に一度の国家試験を受けて取る方法があるのね。私たちは前者で。だから試験は受けなくて済んだんだ。

――なるほど。実習先って選べるの?

なっちゃん
いや、選べない。自分では決められなくて割り当てられるんだよね。保育園、幼稚園、児童養護施設、乳児院、あとは年配の方が多い障がい者施設とかも対象。

前原さん
私の場合、その実習のひとつが児童養護施設で、自分に合うかもなって思って。

――ほう~なるほど。児童養護施設ってどういう感じで働くの?

前原さん
施設にもよるけど私のとこは、40人くらい子どもたちがいて、それが7寮に分かれてて、担当の寮を何人かの職員で持ち回りで見ていくって感じだった。保育園よりは年齢がちょっと上の子たちが多かったかな。一番下が2歳で、一番上が18歳。

――そうだったんだ。保育園はどう? コロナとか大変だったんじゃない?

なっちゃん
2021年の1~3月くらいまで、何回か保育園が休園したよ。私は自宅待機だったから楽だったんだけど、働いてるお母さんたちがすんごく大変だったろうなって思う。今年に入ってからお休みすることなく営業してて、医療系の仕事をされてるママさんとかがよく心配してくれてた。私たちは当然マスク付けるけど、子どもたちはつけないから。「保育士さんが一番かかりやすいですよね」って。くしゃみでつばとか飛び放題だし、それで抱っことかするしね。

――そうだよね。抱っこってさ、最初緊張しなかった? あ、でも大学で習うのか。

なっちゃん
あーでも大学の授業では人形を使ってたから、うん、緊張した。

前原さん
人の命となると全然違うよね。

なっちゃん
え、足こう持ってもいいんですか?って。現場で知ってく感じだったかな。人の命だから全部が怖いじゃん。知らないうちに気を遣って疲れてくんだよね。だから仕事ある日は基本爆睡。

前原さん
ね~。ダウンジャケットとか、つるつるした素材着てるとさ、抱っこ怖いんだよね~。絶対に落とせないから落とさないんだけど。

――パスタ……。

前原さん
いや、パスタも大事だけど!(笑)

(ほんとにおわりです)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?