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演劇は、私たちが今居る、それぞれの場所から立ち上がる|松井周「小さな摩擦を起こす」WS開催レポート

本記事は、2022年9月23日〜25日に開催されたサンプル・ワークショプ2022「起こす」の開催レポートです。

(執筆:池澤一廣 編集:松井周の標本室)

はじめに

私は普段、栃木県でひとり会社のオーナーとして、業務システムの製作などの仕事をしています。

2001年にナマの演劇というものをはじめてみて、2002年に大駱駝艦の「無尽塾」で舞踏に足を踏み入れてからは、ダンスやったりみたり演劇みたりしてきました。
大駱駝艦はもちろんですが、ダンスは、もう亡くなられた黒沢美香さんが大好きでした。演劇はサンプルと東京デスロックと青☆組が好きで行ける機会をみつけては観にいきました。
松井さんはこれまで何回もドアを開けて誘ってくれるので、演劇の世界に近づくことができました。ワークショップや稽古見学会、読書会と両手を広げていらっしゃいと言ってくれました。つきなみですが、有り難いです。そうやって少しずつ世界が広がってきました。

「戯曲・演出」と題されたこのワークショップでは、全てのワークひとつ一つがそれぞれ違った断面を楽しみながら、総じて戯曲≒演劇の作り方の一端を体験するものだったと思います。とても楽しくて、3時間もアッという今でした。

〈講師プロフィール〉
松井周(まついしゅう) 劇作家・演出家・俳優/サンプル主宰

1972年生東京都出身。1996年劇団「青年団」に俳優として入団後、作家・演出家としても活動を開始する。2007年『カロリーの消費』より劇団「サンプル」を旗揚げ、青年団から独立。バラバラの自分だけの地図を持って彷徨する人間たちを描きながら、現実と虚構、モノとヒト、男性と女性、俳優と観客、などあらゆる関係の境界線を疑い、踏み越え、混ぜ合わせることを試みている。近作に『変半身(かわりみ)』(共同原案:村田沙耶香)、『ビビを見た!』(原作:大海赫)など。
2011年『自慢の息子』で第55回岸田國士戯曲賞を受賞。2016年『離陸』で2016 Kuandu Arts Festival(台湾)に、2018年『自慢の息子』でフェスティバル・ドートンヌ・パリ(仏)に参加した。

物語の始まり

コロナ禍でも、工夫を凝らして毎年集まってワークショップを実施していることについて、松井さんはこう言います。

演劇の外の人に演劇面白さを知ってほしい。演劇をやっている人も演劇の外の人と繋がってほしい。演劇の内と外を繋ぐようなワークショプをしたい。
また、コロナ禍により「集まれない」中、こうして集まって話したり、いろいろやったりすることで、「この一人だけの世界で妄想を肥大させてしまったり、あるいは現実に押しつぶされてしまったり」という状況を変えたい。

ほんとうに集まることが困難になってしまいました。私は関東の農村地域に住んでいますので、もしコロナにかかったらどんなこと言われるか分からないなー、という緊張していました。、東京に用事があるときも大きな声では言えない・・みたいな感じです。地域の会合も全て文書の回覧によるものになり、集まるということがなくなりました。

コロナは依然として収まる気配がありませんが、最近になってようやく、いつまでも集まらないというわけにもいかないしというわけで、地域の集まりも復活してきました。「集まる」ことは、それだけで何か心が湧いてきます。私も少しハードルは高かったのですが、このワークショップに参加できてよかったなと思いました。

その後、私もよく親しんでいる松井さんの作品や活動についてご紹介いただきました。印象に残っているのはこちら。

『変態』はトランスフォームということで、人がモノになったり、モノが人になったり、そんな変な世界を作ってたかな、と思います。

私が初めてみた松井さんの作品は多分2005年くらいだったと思います。演劇をみ始めたばかりで、夢中でアゴラ劇場と小竹向原の春風舎に通いはじめた頃です。松井さんの作品はSFのように感じました。

「変態」はトランスフォームということで、もちろんご本人が言われる通りなのでしょうが、自分は「変態」で十分納得していました。トランスフォームも含めてですが、真正面から「変態」を考えさせられたように思います。

ワークショップのはじめは、松井さんのレクチャーでした。そこでは、松井さんが「どんなことを考えながら、何を大事にして戯曲を書いているのか」という秘密が明かされました。

第一の秘密は、「五感が揺さぶられる体験」ということです。

五感が揺さぶられる体験

・舞台というのは、物理的な具体的な場所であって、その場所を一杯にすること、
それに具体的な言語を語らせることが求められている

・この具体的言語は、言葉に従属することなしに五官(=五感)に訴えるように作られている

・まず感覚を満足させるべきだということである

アントナン・アルトーの言葉※を引いて「五感が揺さぶられる体験」についてお話が続きます。

「言葉(台詞)」の前にその場所から五感で感じられるもの、その場所が五感に訴えてくるもの、その感覚が重要だ。どうしても台詞やあらすじのことを考えてしまいがちですが、その前にその場所が引き起こすたくさんの感覚(=台詞に従属しない言葉)が重要です。
その場所には何があるのか? 光は? 床の硬さは? 音の響き方は? 匂いは? そういう感覚=」台詞に従属しない具体的な言語」でその場所をいっぱいにする、ということです。
「そこに人間が惹きつけられてしまう」というのです。

※「演劇とその分身」アントナン・アルトー
アントナン・アルトーとは、アントナン・アルトー(1896年9月4日-1948年3月4日)はフランスの劇作家、詩人、エッセイスト、俳優、劇場監督など幅広い活動を行う芸術家。初期シュルレアリムのメンバーであり、また20世紀の前衛演劇のパイオニアとして知られており、のちの現代演劇に大きな影響を与えた。https://www.artpedia.asia/antonin-artaud/

第二の秘密は「ホントとウソの二重性」です。

【ホントとウソの二重性】

・空間・身体・時間を共有する
・ライブ、ダンス、パフォーマンス、演劇 
・ただし、演劇はこの3つの要素を二重化する

空間、身体、時間を共有するというのはパフォーミングアーツに共通する前提だが、特に演劇はこの「空間・身体・時間」の3要素を二重化する、といいます。
ホントの今昼の1時15分の時間で、このBoUyの地下のこの場所がホントの場所としてあるとして、皆さんは参加者としてここに参加している。
そこにウソを作って、例えば僕は王様で皆さんは王様の言葉を聞いている家来であり、この空間が王宮であり、ここは夕食後の何かの場所だとか。そういうふうに最初からウソを前提として見る。お客さんもそのウソに乗っかろうとしてみている。というのが基本的に演劇の特徴かと思います。

私は演劇の中の人ではありません。だからと言うわけではありませんが、演劇をみた後はいつも「ああ面白かった」くらいの感想しか言葉になりません。でも、いつも「演劇を作る人はすごいなー」と思うのです。演劇を作るなんていうことは自分には絶対できないと。

「この会場で一番気になる場所」や「自分だけかもしれないちょっとした快・不快のポイント」をシェアしながら

ワークショップに参加したからといって自分が演劇を作れるようになるとは到底思えないのですが、この二つ秘密を知った今、きっと、演劇がまた一段と楽しくなるに違いありません。

擬人化クイズで客観的になる

松井さんのレクチャーから、だんだんシーンを作るワークに入っていきます。
その前に、世界をどう設定するか?という話でTOPを考えるべきという話でした。TPOは「○○プレイ」と考えると面白いと言います。

世界の設定 ・人間の振る舞いはTPOによって決まる? ・時間(T)、場所(P)、場合(O)によって変化する振る舞い(行動)を考えてみる ・○○プレイ  例)お葬式プレイ、ライブ直前プレイ、友人プレイなど

例えば、「エレベーターの中でどこを見てますか?」という問いかけ。

◯目が合うのを避ける派
A. 角に向き合う形でたち、角の線を上から下まで目で追いながら過ごす。
B. 基本的に床をみている。
C. 知り合いと目を合わせたくないので壁をみる。目があうと挨拶しないといけないので。

◯役割を作る派
D. 開け閉め係をやって、ボタンのところを見ている。
E. アップルウォッチをみている。自分は何かしてますよーという演技。

◯周りをぼんやり見る派
F. 鏡があれば鏡の中の自分をみている。なければ前の人の背中。
G. 階数のボタンがあるところ。この階では誰がおりるのかなとか、この人5階でおりるんだとか。

あなたはどんな「エレベータープレイ」をしていますか?

普段の自分の行動をこのように捉え直してみると、何か新鮮な感じがします。日頃何度となくエレベーターを使っていても、「エレベーターの中で自分がどこをみているか」などと意識したことはありませんでした。演劇の世界では「そんなことを考えるのか」と思うと、演劇的なものから「日常の振る舞いへのフィードバック」も生まれそうです。

特に面白かったのは擬人化クイズと三角関係でシーンを作るワークです。

擬人化クイズ
・モノやコトを擬人化してみる
・友人を紹介するように「その人」=モノやコトを紹介する
・「その人」の出身、仕事、性格、家族を紹介する 

注意:
1.モノやコトであればなんでも良いが、スマホは身近(簡単)すぎるので除外。
2.概念は解釈の幅が広すぎ、複雑になので除外。(例:愛)

まず松井さんからの例題です。

「僕の友人を紹介します。
その人の出身は沖縄の方かなと言う感じです。 
仕事は主に解体業。
性格は、気性は荒いのですがハートは凄く穏やかというか、そういう人です。家族は結構います。
常に世界中にいます。 」

会場では、これだけでわかる人はいませんでした。

Q:その人がよく着ている服の色はなんですか?
A:白が多いかなー。だけど皆さんは肉眼ではそんなに見ることは ないと思います。写真とかだと白いものが多いですね。

Q:身長は何センチくらいですか? 
A:結構デカいです。皆さんも多分ずうっと会ったこ とありますよ。子どもの頃からその人には会ってますね。

Q:その人が主に仕事をするシーズンはいつですか? 
A:シーズンは 6 月くらいからで、今もです。

Q:近づくと匂いはしますか? 
A:匂いはしますけど、それは基本的にその人が仕事をしている影響で、その人は解体業をしているので、ほこりがとか、いろいろそういうことです。

Q:その人は移動するのが好きですか? 
A:移動するのは好きですね。

Q:その人の年令は? 
A:年令は・・そうですね。一週間くらいですかね。生まれてから一週間くらいで、 大体老年になると穏やかになるんですが。

今の時点で分かったという方は? 半分くらい分かってますね。

Q:よく泣きますか? 
A:よく泣きます。というか叫びますし、感情はほんとうに豊かです。

Q:物を投げがちですか? 
A:物は投げがちです。

Q:その人と友人になったきっかけはなんですか? 
A:子どもの頃はその人に会うなっていわれてたんですけど、会いたいというか、その人に会いたくてしょうがなくなるくらいワクワクして、その人を待ってたという時もあります。友人になったのはその時からです。
憧れじゃないですが。逆もありますよ、怖いというのもありますが。恐さと憧れが表裏一体です。

Q:その人が来たら学校は休みになりますか? 
A:学校は休みになります。

だいたいわかったという方は?
じゃあ皆さんで正解を言ってみましょうか。せーの

(一同)台風

そうですね。台風です。

気性が荒くて、ハートはちょっと穏やかで・・と、そういう感じでその人の属性を自分なりに考えてみてください。質問していくので全部わからなくてもいいです。

続いて、参加者からも出題にチャレンジです。

「私の友人は、出身はなかなか教えてくれないのですが、
おそらく東京かなと思います。 
教頭先生をしています。 
教頭先生の連盟があって、教頭先生が集まっています。
真面目で仕事一徹な感じです。 
教頭先生連名で満たされているので、家族はおらず独身です。 
仕事一徹なところが愛おしい人です。 」

これだけでわかる人はいませんでした。

Q:見た目の特徴は? 
A:茶色いスーツが特徴です。

Q:僕は会ったことありますか? 
A:ここにいる皆さんはみんな会ったことがあります。最近も会っています。

Q:教頭先生ということは学校に居るんですか? 
A:学校に居るというか、居るべきところに居ます。サポートしているというか、居なきゃいけないときに居ますよという。

Q:身長はどれくらいですか?
A:そんなに背は高くなくて、大体1メートルあるかなあというくらいです。場合によっては若干変化するかもしれないです。

Q:お休みの日は何されてるんですか? 
A:お休みの日は寝ています。ずっと。

Q:その方と外で会いますか? それとも家の中で会うのでしょうか。 
A:外で会うときは割と誰かと仕事中だったりするときですかねー。 

Q:堅いですか? 
A:そうですね。性格的にも彼の仕事的にも堅いことがすごく重要です。堅いという か、丈夫であることが重要です。

今だいたい分かったという方いますか? ……(誰も手挙らず) すごい。

みんなで教頭先生の正体を考える

Q: スーツを着てるといいましたが、裸になることは出来るんでしょうか? 
A:基本的にスーツが崩れないんですよ。脱げないです。

Q:もう一度お仕事について聞きたいんですけど、教頭って何されてるんですか? 
A:私の見てきた教頭先生は、だいたい校長先生のフォローをしたり、いろんな先生方を見ながら仕事をしている感じです。 

Q:校長になる人はいないですか? 
A:ああ、ちょっと出世は見込めないですね。

Q:その方は自分の足で動けますか? 
A:ああ、移動はちょっと難しくて、誰かが付き添ってあげないと難しいですね。

Q:何を食べますか? 
A:あ、召し上がらないんじゃないですかね。起きているときも食べてない。

Q:その人は声をだしたり、歌ったりしますか? 
A:ちょっと年令を重ねたりすると声が漏れたりとかします。

Q:ちなみに、今も僕がその方を連れている可能性はあるんですか? 
A:皆さんはすごくお世話になっていると思います。

ここでついに回答者が!

わかった人:鏡台……だと思ったんですが……
出題者:あー、違います。

正解はこのパイプ椅子です。(皆が座っている椅子)

一同:えーっ!(笑)

出題者:そこにいるのが教頭先生だと思ったのです。(会場の隅を指さす)

部屋の隅に小さな机や、パイプ椅子が置いてある様子を教頭先生のようだと思ったそうです。確かに教室の隅に置かれた机のように見える、教頭先生といわれればそうかもしれない。

出題者:それでこれが(今皆がまるくなって座っているパイプ椅子)なるほどこれは教頭先生連盟だと思って。イス単独で成り立っていて、茶色い様子が、独身で茶色いスーツを着ているように感じました。

凄い旅をさせてもらいましたね。はい、ちょっとこの辺にしておきましょうか。

これは要するに世界観なんですね。自分とモノとの距離というか、それを説明していくと、自分の世界観というかフィルターの感じが、質問に答えているうちに出来てきます。さらに、自分がモノとどういう関係なのかということを喋ることが、自分と人について想像することになる。

例えばスタッフといっしょに仕事をする、演出をするとき、「あそこの部屋がおばあちゃん家の仏壇のある部屋の感じなんだけど、すごい懐かしくて好きで飛び込みたくて」とか、「暖かくて」とか、そういう風に説明することのほうが、劇場のスペックとか照明のスペックとかの話をするより伝わりやすいという感じがあります。

だから演出するとき、チームワークをするときにはに自分の世界とモノとの関係を擬人化すると想像しやすくなるんです。

独特な感じ方の場合もあると思いますが、その独特の場合の感じも、ああそういう感じでみてるんだなという、紹介者の世界観が見えてくる。その世界をわざわざ説明しなくてもいい。そういう感じがあるので演出するときに、僕は割と擬人化して何かについて説明するということをやっています。

それぞれの人のフィルターと、さらに今クイズを出しているときに皆さんの頭の中に浮かんだ、全然違う感じというのも、そのズレみたいなものも楽しめる。そのズレが、その人と今ズレたことを考えた人の距離だったりもします。だからズレるというのも面白いし、そこから新しいアイディアが出てくる場合もあるかもしれません。

ここまでのワークは、
まず自分自身の振る舞いや行動についていろいろと考えてみること、
次に擬人化した「ある人」の振る舞いの全体を眺めて、その「ある人」について思いを巡らせること。

それぞれが楽しい時間でした
さて、これからのワークはどんな方向にいくのでしょうか。

三角関係からはじめてみる

三角関係
・あるテーマについて「はい」「いいえ」「どちらでもない」の人の役割に分かれて話す
・話す目的は、自分の味方を作ること

松井さんは演劇を作るときに「対立関係」をどう作るか、そこでどのような摩擦が起きて対立が発生するのか?を考えるそう。最初に、三角関係で考えていることが多いそうで、みんなも小さな三角関係を作ってみるワークを実施しました。

3人ずつ組みを作り、「はい」「いいえ」「どちらでもない」の役割を決めます。
そして、与えられたテーマ(ラーメン、コーヒー、車、など日常のキーワード)に沿って役割に応じて会話をしていきます。
なんとなく雑談をするところから、テーマについての会話に入って行くのですが、それぞれが会話の中で「味方を作る」ことを目指します。

私のグループのお題は「温泉」でした。

はい:温泉はいいですよねー。

いいえ:そう…ですかねー。温泉って落ち着かなくないですか。自分の家の風呂が一番落ち着きますね。自分の家だったらゆっくり浸かりながら音楽聴いたりもできるし。

はい:ああ、なるほどー。そういうこともあるかもしれませんが、でも入浴剤とかじゃなくて自然の温泉はいいんじゃないでしょうか。炭酸とか硫黄とかいろいろあるじゃないですか。

どちらでもない:まあ周りに人がいるかいないかっていうことは、結構気になるかも知れませんね。

…という感じで自然に会話を繋ぎつつ、互いになんとか相手をこちらに傾けようと目論みます。

私は「はい」の人で、温泉の良さをアピールするのですが、温泉嫌いの人を説得して温泉を好きになってもらうというのは、とても大変で、並大抵のことではないと思いました。

「どちらでもない」担当の方は、「はい」「いいえ」の両方の意見を聞いて違う提案をする、好きなところと嫌いなところの中間点をいく。・・・というような作戦だったようです。

「いいえ」担当の方は、『「はい」の人とは自分が大事にしていることと決定的に違うということが話していて分かった。』ということでした。

この三角関係を一つにするのは相当難しいのではないでしょうか。3人で社会が始まるとはまさに。生きるって大変ですね。

問題を起こす!

最後に、ここまでのワークで慣れてきた感覚を総動員して、「問題を起こす」ワークをやってみました。
三角関係のワークでは、すでに問題が起きています。このワークでは、どうして問題が発生するのか?まで考えてみる試みです。

問題を起こす ・問題は「社会」で起きている ・まずは問題が起きそうな場所を探す (五感、TOP、特性を参考にしても OK) ・序破急の「序破」で問題を起こしてみる 序 問題が起こる前(いつ?どこ?誰?)  <問題が発生> 破 問題が起きた後

そこで、グループに分かれ問題作りを始めるのですが、面白かったのが「場所」起点でグループを決めたこと。なんとなく会場内の好きな場所を決めてその場所に立ち、位置が近い人同士でグループを作りました。

場所から出来事を話し合っていくみなさん

さて、6つのグループのそれぞれの場所で、どんな問題が起きたのでしょうか。

非常事態!どこから逃げる?問題

廃墟に探検に来た3人。姉と、姉に強引に連れてこられた弟、そして廃墟探検仲間の経験者。 突然停電して真っ暗になった廃墟。非常口のサインが点滅している。入ってきた入り口から出ようという姉、非常口から出たいという経験者、真っ暗でパニックになり絶対この場から動かないと決めた弟。姉として弟を連れていかないこともできず、経験者としても他の人を放って逃げる訳にもいかず。どうするのか!?

「絶対動かない」という人の存在で問題が起きています。

ジャズ喫茶 BUoY 存続問題 地上げ問題の背後に複雑な人間関係が!

ここはジャズ喫茶BUoY。経営がうまくいかず、このまま続けていこうか悩んでいるオーナー。 BUoYのピアニストでもあるオーナーの奥さん。母の代から続く喫茶店を守りたいが経営不振も認識している。 北千住の都市開発で地上げをしている地上げ屋。じわじわ人気の北千住エリア、今この土地を買い取りたい。 そしてさらに、常連の地域の町内会長。かつて奥さんを巡ってオーナーと恋の鞘当てを演じた!? お店が好きというが、オーナーはただ「続けい欲しい」ではないものがあるのではないかと疑っている。

椅子の破れてるようなところから、発想を膨らませたそうです。

BUoYビル売却問題 未整理のモノがあふれる地下室で取引の行方は!?

北千住で売り出し中のビル物件。このビルを買いたい人、売りたい仲介業者、片づけ作業をする業者の人がいます。内見中の買い手はビルを上から見学してきて、好感触!しかし、最後に地下に来たら片付け中のモノがこんなにあった。 そこで、不安になる買い手。 仲介会社の人はとにかく売れればいい。片付け業者の人は、モノの処分をどうするか早く決めてほしい。もう17時なのでどうでも早く決めてもらって、はやく帰りたい。 話がうまく進まないと責任を押し付けられてしまうかもしれない。

会場にはいろいろモノが置かれているので、そういうところから物語を展開させたのだそうです。

超優良物件に存在する「問題のトイレ」問題

ここは超人気デザイナーズマンション。不動産屋と内見にきた夫婦。奥さんはバルコニーもあるしホームパーティもできると乗り気で、絶対ここがいい!しかし、問題がこだわりの小さいトイレ。夫は腰痛持ちなのであった。 大人気物件で、内見希望リストは埋まっているので、買うならすぐに決めないといけない。 トイレ以外は完璧、トイレだけが…どうする!?

パブリックアートの展示で、市民が怪我!?

ここは、取り壊された銭湯施設を活かしたパブリックアートの展示場所。なんと、作品を見にきた市民が怪我をしてしまった!危ないから撤去しろという市民、 間に入る市役所職員、作品を守りたいアーティスト。

こちらは、(会場である元銭湯・BUoYの)シャワーヘッドの向きが揃っていないのが気持ち悪いという話から膨らませたそう。あれがアートだとしたら、アートだとすると直したくない?この水道管がカッコいいという話もあり考え出したそうです。

こちらは松井さんからこんなフィードバックも。

こちらは、怪我をしたというのは大きなことなので、その場合アーティストを挟まずに市の職員が全てやってしまうかもしれない。
困る人にアーティストを入れずに、職員の中でアーティストを立てる人と、安全第一でしょうという人と、お客様とという関係もリアルだなと思いました。

日本の失われつつある文化「銭湯」の存続をめぐる闘争/弾圧問題

ここはかつて日本カルチャーを代表していた場所、銭湯。銭湯を弾圧した側のトップが銭湯を愛していた人たちを銭湯の奥にある独房にどんどん収容し、銭湯のカルチャーも無くしてしまおうとしていた。 そこに銭湯文化を復権しようとする人が登場して冒険が広がっていった。

設定が膨らみすぎて、まだ役割が決まっていない……(笑)

全チーム独特ですね!このあと、時間があればさらにシーンを膨らませて作品にしてみるそう。
ここからどんな物語が展開していくのか、それぞれ気になって、もっと時間が欲しくなります。

やはり「場所」というところから喚起される力はとても強くて、そこから広げるとそこでの振る舞い方を想像しやすい。こんな人がいたら面白いね、とか。

頭の中で考えていると、どうしても、愛憎関係など先に人間関係を考えてしまい、物語の進行やあらすじを考えてしまったりすることも多いです。

そうではなくて、今みたいに「場所」という限定されたところで、どんな人がいたら面白いのか、そして自分にフィードバックされる感覚、例えば色とか狭さとか広さとか匂いとか、ごちゃっとした感じとか。その印象から問題を考えていくと、それには説得力があるんです。そしてその説得力は共有しやすい。

個人的には場所から考えるというのが特殊に感じていましたが、松井さんの話を聞いてとても納得しました。

おわりに

ワークショップに参加する中で、自分自身の振り返りから出発してだんだん戯曲そして演劇の核心へと近づいていきました。そして全体を通してますます演劇が楽しくなりました。

このワークショップで私が一番意外だったことは、物語が「人」からではなく「場所」からはじまり、場所から展開していくということでした。なるほどいろいろやってみると、確かにそうなのかなと思えてきます。

劇が始まる前に舞台が見えていることがあります。私が演劇を初めてみたとき、観客が次々と劇場に入っているときに、既に幕が上がり舞台が見えていました。それを思い出して、なるほど場所から始まるのだなと、妙な納得をしています。

やっぱり相変わらず自分に演劇を作るなどとてもできるとは思えませんが、このワークショップで演劇がどうやって作られていくのかを身をもって体験することができました。これから演劇をみるとき、これまでとはまた違った楽しさを感じられるのではないかと思います。

松井さん、ありがとうございました!


サポートは僕自身の活動や、「松井 周の標本室」の運営にあてられます。ありがとうございます。