恥より成果を#ニコニコ内定塾#2017年就活編#11h#4/22

「では、本日のセミナーは以上です!皆様、お気をつけてお帰りください!」
司会の社員が朗らかにアナウンスしたところで、望月が慌ててバインダーをカバンの中にしまう。
ほとんどの参加者が退場口へ歩いていく中、さっきまで壇上で話していた社員の元へ向かった。
「すいません!少しお時間いいですか?」
「え‥あ、はい。大丈夫ですよ!」
一瞬見せた怪訝な表情を切り替え、営業用の顔で社員が答える。
「お話、とても勉強になりました!特にこれからはIOTだ、というところがとても新鮮で‥商社の方なのにそういった視点で物事を見てる方っていらっしゃるんだなぁって‥びっくりしました!」
望月は事前に準備していた質問をする。いきなり知らない人に話しかけるのも最初は恥ずかしかったが、今は自分を違う人格に切り替えることに少しずつ慣れていっていた。
「いやぁ、嬉しいなぁ。商社って聞くとプロダクトを持っていないからそういったIOTの話とかキャッチアップしてないって思われるんですけど、そんなことなくて、常に広い視野で捉えなきゃいけないんですよね。他にも‥」
社員が得意げに話している内容のほとんどは頭に入ってこなかったが、なるだけキラキラした顔でキーワードだけメモを取る。

「セミナーに行く目的はなんだと思う?」
この間、石川に聞かれた時、望月は「その会社を知るためでしょうか?」と答えた。
「違うんだよなぁ。目的はただ一つ。会社内で発言力がありそうな社員の名刺を手に入れることだけだ」
「どういうことですか?」
「いいかい。セミナーで話すことなんてほとんどググれば出てくるから別に知識を得るために行く必要はない。けど、社員との繋がりは中々作りにくいでしょ?そのセミナーに出て、リクルーターと呼ばれる社員の名刺を手に入れる。そのためには誰が使えるリクルーターか見極めなきゃいけない」
見極める?望月の頭の中にはてなマークが浮かぶ。
「まず、セミナーを仕切ってる人事を狙ってもしょうがない。あの人たちは結局ただの中間業者だから、自分たちで責任を取らない。必ず、学歴とか、あの人がいいと言ったからと言い訳を用意しようとする。狙うべきは、その人事に「この人いいですよ」といってくれる社員だ。特にセミナーに登壇者としてくる社員は社内でも評価されている人たちだから、その人のところにいってまずは名刺をなんとしてもらう。そして推薦してもらう」
しかし、いざ繋がりを作ろうと思っても、中々めんどくさがって名刺を渡さないのは、何回かセミナーに出て望月は気づいた。
石川に相談すると
「社員も人間だ。だから、転がせそうな人間を選んだほうがいい。一番攻略しやすいのは、セミナーとかでちょっと周りとは違うことを言おうとしている、プライドが高くてバカなやつ。そういう奴はちょっと自分の意見を肯定されると、「この子いい子だな」って勝手に思う」
それから、望月はセミナーの最中にカモになりそうな社員を探すことに全神経を集中させていた。どの社員が重要か?その社員はどうやったら気持ちよくできるか?石川に勧められたメイク講座にも行って外見にも気を使った。
その結果、結構な確率で名刺をもらえるようになった。
今回のIOTと言ってた社員の名刺も手に入れ、早速アポイントメントのメールを打つ。こちらからあらかじめ日時を指定する。時間は全て夜だ。なぜなら、酔ったふりしてボディタッチを多めにしといた方が、より好印象を植えつけられるから。もちろん、会うときは事前にフェイスブックで検索して、その人の好きそうなこと、趣味なども把握しておく。
もちろん、この方法で本当に推薦してくれるかは、実際に選考の時期にならないとわからない。そこで普通のグループ面接から始まるか?それとも個別面接から始まるか?で初めて推薦がついたかどうかわかる。
ニコニコ就活塾に入ってから、そんなに悩まなくなった自分に気づく。言われたことをやればいい。しかも、やればちゃんと結果がついてくる。進んでいる感じがする。