多神教文化やアニミズムと妖怪文化との関わり
今回は、多神教文化やアニミズムと妖怪文化との関わりについて、5つの論点から述べたいと思います。
1:宇宙観と自然観
日本には「八百万の精神」があり、万物に魂矢が宿ると言われてきました。田んぼや畑からもたらされる自然の恵みや、その反対に台風や竜巻などの自然災害などから、ヤマビコや山から聞こえる不思議な音、ひいては人々が発する言葉にまで、魂が宿る、という考え方です。このような不可思議な現象に対して、原因や理由は分からないが、「わかったつもりになる」ことで平穏な日常を送ってきた。そうして人間の知恵が、妖怪文化でもあります。
2:社会構造と神々の役割
日本では、明治時代に富国強兵の方針のもとで、近代化が進められました。その中の一つとして、古くからの迷信や伝承などを科学的観点から否定しようという動きがでてきます。そこで生まれたのが「妖怪学」という学問です。東洋大学の創始者でもある井上円了が、妖怪を批判的に研究することによって、迷信や民俗的な伝承が否定されていきます。ですが、これによって妖怪文化が消えることはありませんでした。むしろ、この「妖怪」という言葉が確立されて、後世に伝えられることになるのです。
3:神話や伝承の意義
妖怪は、子供たちを川や谷などの危ない場所に近づかないようにする「戒め」としての役割がありました。川で遊ぶと河童にさらわれる、といった言い伝えは日本中あらゆるところに残っています。子供たちはこれのおかげで命が守られたというだけでなく、その怖い存在である河童を自分たちなりに想像して、絵にかいたりしていました。このようなことから、妖怪の世俗的で、民俗的な文化・芸術が生まれていったのだと思います。
4:多様性と共存
妖怪美術館では、「妖怪SDGs」という企画展がありますが、まさにこうした論点をテーマにした展覧会です。価値観の異なる人たちと共存するために必要となる、精神性は妖怪から学ぶことができる、というものです。つまり、妖怪文化が伝えてきた、「よくわからないが分かったつもりになって生きていく」という考え方は、多様性を認めて、寛容な気持ちで社会生活を送ることができる考え方、ということができるのです。
5:現代社会への影響
さきほど話したように、日本人は、環境の変化や自然災害は「妖怪のしわざ」とされてきました。そして、その自然の脅威を鎮めるために、神としてお祀りをしてきたのです。これによってあらゆるものを神として崇め奉る文化の土壌ができてきたのだと思います。さらにそれは一つではなくたくさん混在することになりました。
例えば、妖怪美術館がある小豆島には、たくさんの宗教があります。小豆島には島のお遍路、八十八ヶ所霊場があり、この島に住んでいる多くの人が真言宗の仏教徒です。私は島の知人のお葬式で、参列した大半の人が般若心経を空で唱えられる光景を見て驚きました。また、秋祭りで賑わう八幡神社や、八坂神社、稲荷神社、権現神社、金毘羅神社、天神神社、住吉神社、などといった神道系の神社も多数あります。キリスト教系の教団や教会、修道院もあります。さらには、十個以上の新興宗教が島に施設を構えています。
これは日本の縮図ということができると思います。それだけ、日本にはさまざまな価値観を許容できる土壌がある、ということができるのではないでしょうか。私たち日本人には、その大元であり、源流となる妖怪文化が育んだ、多神教的な精神性や、アニミズムが今も息づいていると言えるのだと思います。
ということで今回は、多神教文化やアニミズムと妖怪文化との関わりについて、5つの論点から述べました。
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