引きこもり皇帝
私はどちらかというと「出たきり」で、芝居をやっていた頃は家には寝に帰るだけでした。人とワイワイ、ガヤガヤするのが好きです。
認知症の母の介護が本格的になると、ずっと家で母を見張っているという生活になりました。強制的に引きこもりのような生活をすることになりました。
それが、慣れてみると、思いの外、心地いいのです。本を読んだり、ゲームをしたり、家でできることは案外多いです。不本意で、深刻な引きこもりで毎日苦しい思いをされている方もいるでしょうが、引きこもりの生活そのものは、それはそれでおもしろさがあるようにも思えます。
世の中には「引きこもりタイプ」という人がいるんじゃないでしょうか? 人前に出るのが苦手で、じっくり物に向き合うのが好きという人もいるはずです。
古代ローマの第二代皇帝ティベリウス。どうもこの人は「引きこもりタイプ」だったらしいですね。次期皇帝として皇帝の補佐をしなくてはならない時期、この人はロードス島という島に引きこもってしまいました。皇帝に即位した後も、カプリ島という島に引きこもってしまいました。引きこもりといっても仲のいい友人達と小さな島で暮らしていたという感じです(「ローマ人の物語Ⅵ-パクス・ロマーナ-」塩野七生著、2014年、㈱新潮社)。
昔も今も、ひきこもりの評判は悪いです。ティベリウスは当時も、それ以降数世紀間、暗君だと思われていました。
17世紀末頃からこの人に対する評価が変わってきました。実は名君だったのではないかと。
この人は全ての責任を放り出して、引きこもっていたわけではないのです。ローマ全土から情報が自分の所に集まるように手配して、自分の指令が隅々まで届くようにしていました。情報の行き来さえできていれば、どこにいたってかまわないのです。人気取りの政策は一切しない人でしたが、災害などがあったときには迅速に決断し、適切に対応していたらしいです。
暗君の汚名を着たまま1700年。真の名君とはそういう人かも知れませんね。
今は家にいたまま、色々なことが出来る時代です。現在、周囲からひんしゅくをかっている引きこもりですが、1700年後、人類を救うような偉大な功績を成していた人がいたことが、誰かに発見されるかも知れませんね。
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イラスト by vectorpocket